冒頭でティンパニの独奏があることから、この交響曲は「太鼓連打」というあだ名がある。この曲を最初に聞いたときは、それがもっと続くのかと思ったが、重い序奏があるだけで一向に次の「連打」がやってこない。辛うじて第1楽章の終わりにもう一度。だから「太鼓連打」なんて大袈裟な言い方だと思った。この曲はしかも最後の第104番の陰に隠れて、地味な曲だなと思っていた。
この概念を見事に打ち破った演奏が登場した。ミンコフスキがルーヴル宮音楽隊を指揮したCDが出たのだ。オリジナル楽器を使っているため、ティンパニの音は硬く乾いている。それが高らかに、しかも長い時間にわたって打ち鳴らすのだ。まさしく「太鼓連打」。この演奏、とにかくこれまでの既成概念を打ち破る好例である。おそらく実演で聞いていたら、興奮の渦に巻き込まれていたであろう。
第3楽章のすこぶる速いメヌエットもハイドンらしさを損ねることなく弾力性があり、第4楽章に至っては快速の極み。この演奏が私の場合、現在のもっともお気に入りのハイドン、「太鼓連打」交響曲である。
ミンコフスキの「ロンドン交響曲」の録音は、この「太鼓連打」の革新的な演奏が、今世紀最大のハイドンの録音であることに疑いはないが、それを断ったうえで、ここでは古くからの友人であるジェフリー・テイトの演奏を取り上げておかなくてはならない。第100番「軍隊」とカップリングされたテイトのEMI録音は、私が買った最初のハイドンのCDだったからだ。そういうわけで愛着があるし、その新鮮さは今聞いても変わらない。
ジェフリー・テイトの録音が登場したとき(それはモーツァルトの交響曲だったかと思うが)、「クレンペラーの再来」という触れ込みだった。車椅子での指揮姿もさることながら、その音楽が広く大きく、オーケストラの伸びやかな自発性を引き出して新鮮なサウンドを作る。そういったところからだったと思う。私が聞いたテイトの演奏は、真面目で大人しいが、滋味あふれる温かさがあるというもの。冷徹なクレンペラーとはそこが対照的だと感じた。
そのテイトのハイドンである。私は専ら「軍隊」ばかりを聞いてきたが、「太鼓連打」の演奏も悪くない。例えば重い序奏は、夜明け前の街の風景のように静かで、そしてほのかな明るさを感じる。第2楽章は「太鼓連打」の曲の半分くらいは占めるような大規模な曲だ。暗い曲に始まるが、室内楽的な中間部を経て次第に大きな曲となっていく。そしてよく聞くとあの「ドラムロール」が最後の部分で聞こえてくる。このティンパニは丸で遠くで鳴る雷のようであり、もしかするとこれはハイドンの「田園交響曲」ではないかと想像したくなる。
第3楽章のメヌエットは、とてもハイドンらしいが、印象的なのはやはりティンパニの音だろうか。だがそれ以上に楽しいのは第4楽章の旋律である。他の曲では聞いたことのないメロディーなのだ。歌謡性に溢れとてもうきうきするこの楽章は、すぐに終わる。思えばそれまでは、バロック音楽しかなかったような時代、ハイドンを始めとする古典派の音楽は、時代の最先端であった。ロンドンの聴衆はそれまで、ヘンデルしか聞いてこなかったわけだから、そのショッキングなまでの音楽に熱狂するのも無理はない。
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