2026年6月11日木曜日

NHK交響楽団第2066回定期公演(2026年6月4日サントリーホール、ステファヌ・ドゥネーヴ指揮)

オール・フレンチ・プログラム。指揮者も独唱もコンサートマスターもフランス人。テーマは夏、そして海。NHK交響楽団の今シーズンBプログラム最後のコンサートを聴くため、仕事を終えてサントリーホールに駆け付けた。翌日から出雲への旅行を控えていたため、本来金曜日の2日目を1日目に振り替えることに成功したものの、早朝の出発を控え、どことなく落ち着かない。

こういう時は、バーカウンターで少しアルコールを飲むに限る。ザ・プレミアム・モルツの小瓶を飲み干し、振り替えられた席へ。だがそこは、いつもより少しだけ前方の、より良い席だった。ほどなくしてオーケストラが登場し、最初の曲、オネゲルの交響詩「夏の牧歌」が演奏された。

私は初めて聴いた曲だが、初夏のすがすがしさを感じる作品である。指揮はステファヌ・ドゥネーヴで、私は過去に一度聴いている。その時の印象はさほど残っていない。ただ、NHKホールいっぱいに鳴らした「ローマの松」のエンディングで、パイプオルガンも加わった迫力に圧倒された記憶はある。

「夏の牧歌」はスイスの田舎の風景を音楽にしたものだ。冒頭のホルンの響きが、アルプスを望む朝の静かな情景を表現していることは明白で、私もかの国で夏の2か月を過ごした者として、忘れ難い思い出である。もう40年も前のことになるが、その時撮影した写真から、この曲の光景に合うものを選んで貼っておきたい。

続くベルリオーズの歌曲「夏の夜」は、恋人を失った孤独と寂寥感を表した狂おしい曲。私は面白いことに、実演をこれまでに何と3度も聴いている。ムーティ指揮フィラデルフィア管の演奏(独唱:バーバラ・ヘンドリックス)も見事だった(彼女はコリン・デイヴィスとこの曲を録音し、私も購入して愛聴していた)が、最も感動したのは小澤征爾指揮ボストン響の来日公演で、独唱はスーザン・グラハムだった。日本人によるものとしては、若杉弘指揮都響(独唱:緑川まり)を覚えている。

さて、今回はフランス人のガエル・アルケーズというメゾ・ソプラノであった。彼女の歌声はどちらかというとリリカルなもので、この曲の行き場のない苦悩の表現が十分だったかは評価の分かれるところだろう。また、曲としてのまとまりや集中力はやや乏しく、今はやりの美しい声が前面に出た印象である。

後半はイベールの「寄港地」で始まった。この曲は地中海の寄港地をめぐる旅の音楽で、ローマから始まり北アフリカを経てスペインのアンダルシア地方に戻る。いわば音の旅行記のような作品で人気も高い。情緒にあふれ、色彩感豊かな曲なのだが、どういうわけか今回の演奏からそのような旅情が伝わってこない。フランス音楽に必要なちょっとしたアクセント、あるいはその隙間に漂う間合いが感じられない。これは指揮者の意図がオーケストラに伝わるまでの十分な時間が確保されなかったからではないか、と思うことにした。

最後の曲、ドビュッシーの交響詩「海」でも、その傾向は変わらなかった。大編成のオーケストラに打楽器群も活躍する規模の大きな曲が表現するのは、「海」のさまざまな情景である。この想像力豊かな曲を聴くとき、私はやはり葛飾北斎の「富嶽三十六景」を思い浮かべてしまうのだが、それは出版された楽譜の表紙に印刷されていたからで、当時日本画はちょっとしたブームだったのだろう。けれども決して駿河湾をモチーフに描いたわけではなく、アジア的な作品でもない。いや、ドビュッシー自身、この曲を書いたのは内陸部においてだった。

暗譜で指揮するドゥネーヴは日本びいきの指揮者で、とても愛

想がいい。演奏が終わって各奏者と握手を交わし、長いカーテンコールに応えていた姿は好感の持てるものだった。どことなくフランス人にありがちな自意識過剰気味のムードに彩られてはいたが、もう少し緻密な演奏になるまでこなれた落ち着いた音楽になれば、もっと感銘を受けたであろう。

音楽の感じ方は人それぞれである。聴く位置によっても、聴く側の体調によっても、演奏の印象は随分異なる。N響のサントリー定期は今シーズンはこれで終わり。来シーズンは改装のため3回しか開かれない会員権を更新する気はなく、早々にキャンセルしてしまった。創立100周年を迎えるN響の次期プログラムは、ベートーヴェンの交響曲・ピアノ協奏曲の全曲演奏会を目玉に、有名指揮者が次々と登場する。だが、それらから何を聴くかはまだ迷っている。

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