ここをどのように歩いたのか、実はほとんど記憶にない。私は友人たちと2組に分かれて歩くことにしていたが、最初に歩いたチームと概ね10分の時差を設けることにしていた。まだ携帯電話のない時代だったので、最初に歩いたチームが東海自然歩道の標識に通過時刻を書いたテープを張って行き、後のチームがそれを剥がしていく。このようにしてどちらかが道に迷えば、そこでわかるようになる。ただ連絡手段がないのは困るので、2台のトランシーバを持って行き、にわか登山ごっこをしていたのである。
この効果は行程が単調であっても、時間や距離を感じなかったことである。20キロもの行程をただ4人が歩くだけだったら、そう長続きしなかったであろう。ゲーム感覚と、それに無線の楽しみを兼ねた作戦は、今思えば実に奇妙な光景に思えるが、それはそれで楽しかった。一種のオリエンテーリングのようなものだったとでも言えようか。
京阪電車で南志賀駅から浜大津経由大谷駅まで戻り、次は前回の出発点から石山寺までの行程である。再び蝉丸の歌碑を拝みながら、私たちは逢坂山トンネルの上を超え、山道を石山寺まで進んだ。この区間は整備されて気持ちが良かった。落ち葉を踏みしめながら歩くと、久しぶりに山道を歩く楽しみとなった。京都の北山は、観光地こそ寄るもののその間はほとんどハイキングに適さない感じだった。それに比べると今回の行程は、山道ながらも適度に往来があり、起伏もさほどではなく距離も適切だった。
石山寺には夕方に着いた。源氏物語ゆかりの石山寺は、いつ行っても数多くの観光客で賑わっているが、秋の休日は相当な人出であった。瀬田の唐橋をながら京阪電車を三度浜大津まで戻り、京阪三条に着く。再び鴨川べりを四条河原町に出て阪急京都線で帰る。東海自然歩道もこのあたりまで来ると、往復の電車の時間が馬鹿にならないようになってきた。交通費もかさむ。一体いつまで続けることにするか、私たちは電車の中で話すうち、梅田駅に戻った。
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