元日に録画予約しておいたウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを見た。オーストリア人のシェフ、フランツ・ウェルザー=メストは2年ぶり2回めの登場だが、やや緊張気味だった前回に比べ今年の指揮ぶりには、余裕か感じられた。そのことによってウィーン・フィルはよりリラックスした雰囲気で演奏をしている姿が伝わり、近年にはないうちとけたムードと、よく考えられたプログラムによって、ウィンナ・ワルツの地域的な伝統性を取り戻したコンサートとなったと思う。
私は1979年のウィリー・ボスコフスキーの最終回以来、ほぼ毎年この演奏会をテレビで見てきたが、その記憶によれば1979年(ボスコフスキー)、1987年(カラヤン)、1989年(クライバー)、1994年(マゼール)、2000年(ムーティ)、2002年(小澤)、2003年(アーノンクール)、2008年(プレートル)などと並んで記憶すべき水準の楽しさであった。
テレビで紹介されたところによれば、今年の演奏会は3つの特徴があるという。まず初登場の曲が多いこと、次に弟ヨーゼフの作品が多いこと、それに今年生誕200周年を迎えるオペラの大作曲家ヴェルディとワーグナーの作品が取り入れられたことである。初登場の曲が多いことは近年よく見られる傾向で、これは1988年のアバド以来ではないかと思う。世界的なイベントとなったこの演奏会で有名曲ばかりで勝負したのは、カラヤンを除けばカルロス・クライバー、アーノンクールくらいに過ぎない(みなオーストリア人である)。
ヨーゼフの作品は地味ながらも繊細かつ内省的で、私も好きな作品が多い。その中で「天体の音楽」が何と言っても白眉である。今回もそれが演奏された。私はこの曲の今回の演奏はなかなかのものであったと思う。それ以外の曲で注目したのは、スッペの喜歌劇「軽騎兵」序曲と、幻想曲「エルンストの思い出」などであった。「軽騎兵」はそれ自体楽しい曲だが、これを奇を衒った演奏としないあたりが洒落ていて、ウィーンの音楽というのはそういうものかとも思ったりした。
カラフルに彩られた楽友協会に「ローエグリン」が鳴り響いた時にはほろ酔い気分も吹き飛び、ニューイヤーコンサートも随分変わったものだと思わせた。ウィーン・フィルのワーグナーは音に温かみと軽やかさがあって、新年にふさわしいワーグナーであった。これに対し、ヴェルディの「ドン・カルロ」からのバレエ音楽は記憶に乏しい。ヴェルディのバレエ音楽なら他にも有名な曲がいくらでもあるのに、などと思った。
「美しく青きドナウ」の冒頭で流れたウィーンの朝の映像は、まだこの街にこのような美しいシーンがあったのかと思わせるほどに見事であった。そしてその演奏は・・・逆説的に言えばオーストリア人でないと演奏できないような演奏・・・つまりは何も意図せずオーケストラに任せるやり方を「見事に」成功させた。過去の有名な指揮者たちは、メインのプログラムでは大変立派でも、この曲になると何か拍子が抜けたようなものになっている。それはこの曲だけはオーケストラが自分たちの表現を曲げないからではないかと・・・音楽のプロではない私でもそう思ってきた。だから小澤征爾も、クライバーに至っても、この曲には個性が出ない。
けれどもウェルザー=メストは力みをできるだけなくし、他の曲でもいくらかそうしたように主導権をオーケストラに委ねることにより、プログラムのムラのない成功を導いた。 総じて今年は、この年中行事のコンサートが持つ本来の等身大の姿を取り戻すことになった。
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