ヴェルディの生誕200周年にちなんで、オペラの合唱曲集を聞くことにした。89年の録音なので購入からもう20年以上が経過したが、このCDを発売の頃に買い求め、毎晩のように聞いていた時期がなつかしい。ショルティは当時すでに80歳に近く、それでいてここで聞く指揮の姿は一直線の剛球勝負。いつものチャンバラ劇のような指揮姿が目に浮かぶ。
ヴェルディのオペラの中から有名な合唱曲を選び、ほぼ作曲順に並べたような当CDの本当の主役は、シカゴ交響合唱団である。合唱指揮はマーガレット・ヒリスとなっている。この合唱団は歌劇場の合唱団ではないと思われるので、イタリア語の歌詞に不安があった。だがそれは杞憂というか、そもそも問題ではなかった。「ナブッコ」に始まる曲目を聴き進ん行くと、次から次へと歌が溢れてきて次第に高揚感まで感じてしまう。これこそショルティのマジックにかかったからだろう。
いくつかの曲は良く聴いてきたものなので、旋律を覚えて何度も聴き古しているのだが、音楽というのは不思議なもので、造形的にも見事な演奏が素晴らしい録音の元に再現されると、それまで聞いたことのないような印象を与えてしまうのだ。そのようにして「行け、我が思いよ、金色の翼に乗って」や「アンヴィル・コーラス」(イル・トロヴァトーレ)などの有名曲さけでなく、その間の曲もついつい惚れ込んで聞いてしまう。
「椿姫」の第2幕の2つの歌「ジプシーの合唱」と「闘牛士の合唱」は、この曲が歌われるフローラの館のシーンが浮かんできて、感激に涙がこぼれそうになった。私をオペラ好きにさせたオペラこそ「椿姫」だったからだ。この2つの合唱は、これでもかといわんばかりに続けて演奏される。ギリシャ彫刻のような美しさと明瞭さ、そして見事なテンポ・・・ショルティはそれまでに数々のヴェルディの名演奏を残したにもかかわらず、このCDはすべてオリジナルの録音である。
「ドン・カルロ」を経て「アイーダ」に達すると、もちろん「凱旋行進曲」となるが、当然そこに「勝利の合唱」が続く。この一連のシーンは舞台で見ると見応えがあるが、演出や演奏によっては大掛かりな舞台が間延びしてだれてくる。踊りが舞台に比べて小さすぎて、かえってつまらないのだ。だが録音のみで聞く当CDにそのような不安は存在しない。合唱がない部分もシカゴ交響楽団の素晴らしい演奏がグイグイと私を引き寄せる。集中力が欠ける暇もなく「オテロ」の「火の合唱」に到達。最後にはレクイエムの「サンクトゥス」が付いていて、これは豪華な選曲である。
昨日大雪の降った東京は今日、雲ひとつない快晴となった。風も止んで明るい日差しがさんさんと降り注ぐ昼下がり、私はこの演奏をiPodに入れて大音量で鳴らしながら、日差しを受けて輝く凍った氷の上を歩いていた。
【収録曲】
・「ナブッコ」~祭りの晴れ着がもみくちゃに
・「ナブッコ」~行け、わが思いよ、金色の翼に乗って
・「十字軍のロンバルディア人」~エルサレム!
・「十字軍のロンバルディア人」~おお、主よ、ふるさとの家々を
・「マクベス」~さかりのついた雌猫が
・「マクベス」~虐げられた祖国よ!
・「群盗」~略奪、暴行、放火、殺人
・「リゴレット」~静かに、静かに
・「トロヴァトーレ」~朝の光がさしてきた
・「トロヴァトーレ」~ラッパの響きに
・「椿姫」~私たちはジプシー娘
・「椿姫」~マドリードの闘牛士の我々は
・「仮面舞踏会」~美しく安らかな
・「ドン・カルロ」~ここに明けた、輝かしき喜びの日が
・「アイーダ」~エジプトとイシスの神に栄光あれ
・「アイーダ」~凱旋行進曲
・「アイーダ」~戦いに勝った将軍よ、前に出よ
・「オテロ」~喜びの炎よ
・「レクィエム」~サンクトゥス
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