2017年3月1日水曜日

モーツァルト:管楽器のための協奏交響曲変ホ長調K297b(Fl:オーレル・ニコレ他、ネヴィル・マリナー指揮アカデミー・オブ・セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ)

シンフォニア・コンチェルタンテ(協奏交響曲)と言われる作品がモーツァルトには2つある。一つはヴァイオリンとヴィオラを独奏楽器とするもので、ヴァイオリン協奏曲全集などに収録されていることが多い(K364)。もう一つは4つの管楽器をソリストとするもので、私が最初に聞いたのはこちらの方だった(K297b)。カラヤン指揮のLPレコードに、同時期に作曲された「フルートとハープのための協奏曲K299」とともに収録されていた。

有名な「フルートハープ」に比べると少し見劣りがして、だからB面なのかと勝手に思っていた。というのもこのカラヤンの演奏では、当時のベルリン・フィルの錚々たるソリストをそろえているものの、隅から隅までカラヤン的というのか、あの若々しいモーツァルトに相応しいような溌剌としたリズムではなく、どちらかというとしっとりした大人の、そして夜のモーツァルトであった。中学生だった私は「フルートとハープ」ばかりを聞いていた。

久しぶりに協奏交響曲の方を聞いてみようと思った。すでにカラヤンの録音は手元にないので、マリナーの録音を聞くことになった。この演奏のソリストはまた凄い顔ぶれで、

  フルート:オーレル・ニコレ
  オーボエ:ハインツ・ホリガー
  ホルン:ヘルマン・バウマン
  ファゴット:クラウス・トゥーネマン

といった、当時の各楽器の第1人者ともいうべき面々である。ところがこのマリナーの演奏で聞くモーツァルトのK297bは、私がかつて聞いたカラヤンの演奏とは少し異なっている。なぜなら独奏楽器の1つがクラリネットだったからだ(1971年)。マリナーの演奏(1983年)ではフルートとなっている。

この違いを語るには、この曲が長らくモーツァルトの作品ではないとの疑いを持たれていたことに触れる必要がある。実際に今でも自筆譜が存在しないため、その疑いが完全に晴れているわけではないとも言える。

1778年、パリを訪れたモーツァルトはフルートを含む協奏交響曲の作曲を父親充ての手紙に書いている。にもかかわらず、その楽譜が発見されたときには、自筆ではなく、しかもフルートのパートがクラリネットになっていたというのだ(詳しい経緯は省略)。この曲は結局、クラリネットを含む4つの管楽器のための協奏交響曲として広く親しまれ、カラヤンの演奏もまた、いわゆる従来版の演奏である(今でもこちらが主流)。

これに対し、マリナーは米国人の学者がコンピュータを駆使してフルートのパートを修復し、オーケストラのパートも書き換えた。簡単に言えば本物に近い版を制作したのだ。マリナーの演奏はこの復元版(レヴィン版)の最初の録音と言われている。今では両方の版が演奏されているが、いずれにしても偽作の議論がつまらないものに思えてくるほど、私にはまさにモーツァルトの音楽そのものである。

どの楽章も素晴らしいが、この曲もまたローカル線などに乗って、まだ寒い初春の野原を行く時に聞くとさらに趣きがある、と感じるのは勝手な趣味に他ならない。第1楽章は、初めて聞いた時暗い曲だと思った。だがよく聞くと4つの管楽器を目立たせる必要上、オーケストラの響きは控えめにしているからだ(と勝手に解釈)。普通のソナタ形式で、まあ楽器が多くても協奏曲というのはこんな感じだろうと思ったものだ。

第2楽章のアダージョはとても美しい。私はこの音楽が好きになり、一時期朝の通勤時に会社へ着くまでの間、よく聞いていた。でも本当のこの曲の、協奏交響曲としての真価は第3楽章にあるのではないか。第3楽章は結構長く、12分程度かかるのだが、ここの聞きどころは10にも及ぶ変奏と、それぞれでの4つの楽器のハーモニーである。これこそまさに競演で、協奏交響曲と呼ぶにふさわしい性格を有している。

ここでのオーケストラは、鳴っているのか鳴っていないのかわからないくらいに控えめであり、室内楽の管楽アンサンブルを聞いているような気分になる。モーツァルトがこのような多楽器のための協奏曲を書くのは、これだけである。多楽器の協奏曲はヴィヴァルディやバッハの時代に多く見られるが、当時すでに時代遅れと思われたのだろうか。そして後年になっても協奏曲と言えば、単一かせいぜい二つの楽器をソロとする程度が主流となり、シンフォニア・コンチェルタンテという分野は廃れてしまった。でも室内楽とオーケストラが付いたり離れたりするような曲は、もう少し作曲されてもいいような気がする。いやもしかしたらモーツァルトがこんな綺麗な曲を書いてしまったために、後世の作曲家は諦めざるを得なくなった、などと想像して楽しんでいる。

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