明治時代になってメロディーに日本語の歌詞がつけられた世界民謡の中に、スコットランド民謡が多いのは良く知られている通りである。「故郷の空」や「蛍の光」などは、もう日本オリジナルの旋律ではないか、と思わせる程身近なもので、音階が日本人の感性に合っているのかどうか、その辺りは専門家ではないのでよくわからないが、同じ島国の「ちょっと中央からは離れた」感のある素朴な情緒と、どことなく寂しくて懐かしいムードが奇妙にマッチしている。
そのようなスコットランド民謡は、同じように世界の人々を魅了させるようで、ドイツの作曲家マックス・ブルッフもまたスコットランド民謡を題材に素敵な幻想曲を書いている。このヴァイオリン独奏を伴うオーケストラ曲は、あの有名なヴァイオリン協奏曲第1番の次に有名な曲で、この組み合わせを一枚のLPやCDに収録したディスクも数多い。韓国人のヴァイオリニスト、チョン・キョンファもその一人であり、何と1972年に録音したLPは今でも輝きを失っていない。1972年と言えばまだ大阪万博の2年後であり、従ってこの録音はもちろんデジタルではない。指揮はルドルフ・ケンペ指揮ロイヤル・フィルという渋いのも魅力。私はLPを愛聴していたが、CDになって買い直した時にはメンデルスゾーンも収録されていた。
どの楽章も基調となるスコットランド民謡をベースに書かれているため、全4楽章に亘って抒情的なメロディーと、親しみやすく民族的なリズムが次から次に出てくるが、ブルッフ自身はスコットランドを訪れたことがないらしい。一度聞いたら忘れらないかのように思える旋律も、繰り返し聞いていくうちに表面的に思えてくるのも事実だが、それでも演奏の良さが加われば、味わいのある名曲となる。ヴァイオリンの親しみやすさと、両端楽章で活躍するハープの音色が印象的である。
第2楽章及び第4楽章の舞曲風のメロディーと、第1楽章、第2楽章の甘美でロマンチックな雰囲気が交互に現れる。第2楽章の後半は、一旦終わったかと思うといつの間にか次の楽章へとつながってゆく。ヴァイオリンは親しみやすく、切ないメロディーを奏でているが、特に第4楽章などはテクニカルでもある。個人的には第2楽章が好きだ。第1楽章は、何か「朝の連続テレビ小説」のテーマ音楽のようだ。
私はチョン・キョンファの演奏しか知らないが、今ではYouTubeなどで簡単に様々な演奏に接することができる。けれども、大阪に住んでいると京都や奈良に滅多に行かないのと同様、数多の演奏はいつでも聞けるとなるとかえって聞こうとはしないものだ。とはいえ、Wikipediaからもリンクされているマリア・エリザベス=ロット(ヴァイオリン)による演奏(クリストフ・ヴァイネケン指揮バーデン=ヴュルテンベルク州ユーゲント管弦楽団)は、ドイツ風の骨格の太い、なかなかいい演奏である(南西ドイツ放送のビデオ)。
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