2013年2月23日土曜日

国鉄時代の鉄道旅行:第8回目(1985年3月)⑤

大阪に一時帰宅してわずか数日後、南九州を目指して大阪駅を出発した。今度は一人旅である。そのまま山陽本線を下るのは面白くないので、私はまだ一度も行ったことのない四国を経由するこにした。四国は当時、大阪からは近くて遠いところだった。今のように長い橋が3本も架けられる前の話である。当時関西から四国に行くには、神戸や和歌山からフェリーに乗るか、伊丹から飛行機でいくしかなかった。南海電鉄などは難波から、徳島行きのフェリーに乗り継ぐための特急列車を走らせていたくらいだ。

いまひとつ四国に鉄道で行くには、岡山から宇野まで行き、そこから宇高連絡船に乗るという方法もあった。この連絡船は国鉄が運行しており、青春18きっぷでそのまま乗ることができた。所要時間は確か1時間で、その間は瀬戸内海の風景を眺めることができる。高松に着いたのは丁度お昼頃だったと思う。瀬戸大橋線ができた今とは違って高松駅は、フェリーが到着する四国の玄関口で、雑然とはしていたが活気があった。高松駅からは予讃本線に乗り、松山を目指す。

瀬戸内海をのんびり走る予讃本線は、ときどき長い停車時間の駅があったように思う。私は伊予西条や新居浜といった駅に到着するたびに、駅前を小一時間散策し、そして再び列車に乗り込んだ。四国山地がなだらかな傾斜を伴って瀬戸内海に落ちる。その丁度中間くらいの高度を、カタコトと言いながら列車は春の日差しの中を進んでいった。

結構な時間を要して松山に到着した時には、日もくれていた。夜の8時ともなると、県庁所在地の駅とはいえもう最終列車の趣きである。ここから八幡浜まではさらに2時間を要した。夜の八幡浜は静かな漁港で、これといって見るものはないようだったが、もとより夜も更けていく時間なので仕方はなく、私はフェリーののりばへ急いだ。人気のない漁港の居酒屋から、カラオケに興じる客の歓声などが漏れ聞こえ、それ以外に音や灯りはなく田舎の夜はこうもさびしいものかと思った。

八幡浜から石仏で有名な大分県の臼杵へ向かうフェリーは、日付が変わった頃の出航だった。所要時間は2時間半ほどで、深夜の3時頃に臼杵に着く。この2等船室で仮眠を取る予定だった。だが平日深夜の豊後水道を渡るフェリーに乗り込んだのは、長距離トラックとその運転手ばかりだった。2等船室の雑魚寝スペースでは、出向前からビールを片手に乗り込んだトラック野郎が、大声でしゃべりながら飲んでいる。みな顔見知りなのか打ち解けて入るが、そこに単独で乗り込んだ私は大層居心地が悪い。ここは寝てしまおうと横になっていたが、いつのまにか宴会の席もすぐに静かになった。

夜の海は真っ暗で、吸い込まれそうなほど不気味である。私は甲板に出ようと思ったが怖くなり、ひたすら到着を待った。深夜の臼杵港に到着したことを知らせる汽笛が鳴るときには、さっきまでいたトラック運転手がもういない。彼らはすでに各自のトラックに乗り込んで走りだすのを待っていた。私も客室から出口へと向かった。そこは自動車の駐車スペースで、その脇から乗下船する小型のフェリーである。だが他に客はいない。そして車はみな大型のトラックである。そのうちの何台かは家畜運搬車で、豚や牛の匂いと鳴き声が轟いている。私は何か恐ろしいものに乗り合わせたように思った。

問題は臼杵港からどうするかである。待合室のようなところがあればそこで夜を明かそうと考えていた。だがそのようなところへ行くには、真っ暗な港をトラックに引かれないように周らなくてはならない。だが基本的にトラック運搬用のフェリーには、そのような配慮もなく、乗船員もいない。私はどうしようかと焦っているうちに大きな乗り込み口がゆっくり開いて、向こう側に陸地が見えた。私は一目散にそこを出ると、そこにはただ1台だけタクシーが停まっていた。丸で私を待ってたかのようなタクシーに私は飛び乗り、駅に行くように運転手に告げた。何分か走って臼杵駅に着くと、まもなく西鹿児島行き夜行列車の到着時刻だった。私はその自由席に飛び乗り、ボックスシートを専有した。九州とはいえ3月の深夜である。吐く息は白かった。だが列車は静まり返っており、フェリーに比べると何と上品で心地よい乗り物かと思った。

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