2013年2月26日火曜日

ウォルフガング・サヴァリッシュ氏、死去

私がお気に入りの指揮者のひとりであるウォルフガング・サヴァリッシュ氏が89歳で亡くなった。サヴァリッシュの実演には何度も接しているし、CDはいくつも持っているが、そのどれもが思い出深い。私が初めてサヴァリッシュの演奏に接したのは、中学生の時でNHK交響楽団のテレビ中継だった。曲はベートーヴェンの交響曲第8番。いつもとは違うN響の音はモノラル録音でも感じ取れた。

初めての実演は、NHK交響楽団とのモーツァルトの第39番、第40番、第41番「ジュピター」を、大阪のいずみホールのこけら落としで演奏した1990年5月3日。これは大変熱のこもった名演で、静まり返った中での集中力が素晴らしかった。一人スタンディングで拍手した。後年東京に移り住んだ際、N響の定期会員になって雑誌「フィルハーモニー」を読んでいたら、サヴァリッシュのインタビュー記事が掲載されていた。その中で「最も思い出に残る演奏」のひとつに、このいずみホールでのモーツァルトを挙げていたのを発見し、非常に嬉しかったのを覚えている。

次はシューベルトの交響曲第8番「グレイト」。この曲の持つ深い味わいは、私をぐいぐいと演奏に引き込んだ。中でも第3楽章のトリオ部分がこれほど美しい音楽であったのかと思い知らされた。実は今日は、そのシューベルトの「グレイト」交響曲をミンコフスキの演奏で聴いてきたばかりで、この曲を実演で聞くのはこの時以来である。このことはまた改めて書こうと思う。

そしてN響第1500回記念定期演奏会となったメンデルスゾーンの「エリア」。この日はサントリーホールだったが、それなりに高いチケットを買って出掛けた甲斐があったと思う。今日タワーレコードで何か追悼用のCDを買おうと思い、手にしたのは若きサヴァリッシュがゲバントハウス管弦楽団を指揮して録音した「エリア」だ。2000円したが購入した。

フィラデルフィア管弦楽団との名演も忘れ難い。1995年にカーネギーホールで聞いたベートーヴェンの「田園」は、何か都会的な感じの演奏だったが、私の好みにあったもの。サヴァリッシュの演奏はいつも音楽がわんわんと鳴っている。この他にもN響とはいくつか聞いているが、CDでもいつも新譜を楽しみにしていた指揮者だった。

そのCDコレクションでは、まずバイエルン国立管弦楽団との管弦楽曲集が最も最初の私のお気に入りで、この指揮者の最初の購入CD。スッペやオッフェンバックの序曲のほかに、ロシアものの管弦楽曲などが2枚に録音されている。ストレートで真面目な演奏は、エレガンスは少ないが私は好きである。

古い録音では何をおいてもあげられるべきは、シューマンの交響曲全集。シュターツカペレ・ドレスデンのいぶし銀の音が、サヴァリッシュの正確で無駄のない棒さばきに応える。録音も悪くない。シューマンの交響曲の古典的スタンダードと言える。

後年の演奏ではコンセルトヘボウとのベートーヴェンの交響曲第1番。全集の中で最も良い出来栄えだと思う。ロンドン・フィルとはブラームスのピアノ協奏曲が良い。独奏はコヴァせビッチ。そして盟友フィラデルフィアとは数々の録音があるが、私が持っているのはまず、シュトラウスの家庭交響曲。これは来日時のサントリー・ホールでのライヴで良い録音。さらにワーグナーの珍しい管弦楽曲を集めた一枚(については改めて書く予定)。そして隠れた名盤であるチャイコフスキーの「白鳥の湖」(全曲)。これは大変素晴らしい。あまり教えたくない宝物。サラ・チャンを独奏に迎えたパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番もこの曲のベストのひとつで、私の愛聴盤である。サヴァリッシュの巧みな伴奏が素敵で、この指揮者とイタリア音楽の相性はわるくないと思っているが、ドイツものの曲がメインの選曲は、少し損をしていると思う(今日、レコード屋でウィーン・フィルを振ったザルツブルクでの「マクベス」が売られていた。かなり興味はあったがライブ録音の音質が不明で断念)。

オペラDVDではモーツァルトの「魔笛」が思い浮かぶ。バイエルン国立歌劇場のライブで、このコンビの黄金期。CDになったドレスデンでの「マイスタージンガー」も持って入るが、まだ聞いていない。シューベルトの一連の録音(ミサ曲、交響曲)は今後揃えたいディスクとして、いつもお気に入りリストに登録されている。その他に若き日のバイロイトの録音は、いずれ聞いてみたい。

またひとりドイツの巨匠がいなくなった。合掌。



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