ワーグナーやマーラーを聞き続けてくると、たまには少し違う音楽も聞いてみたくなる。そんなとき、もう一人の今年の主役、ヴェルディの序曲や前奏曲などを集めた新譜が目に留まった。リッカルド・シャイーとスカラ座のオーケストラによるデッカの録音である。勿論今年のアニヴァーサリー・イヤーを当て込んで発売されたものだ。
シャイーによるヴェルディの序曲集には確か、ナショナル管弦楽団だかを指揮した録音があったように記憶している。それから珍しい曲ばかりを集めた「ディスカヴァリー」が、ジョゼッペ・ヴェルディ管弦楽団。今回は3枚目ということになるが、オーケストラがスカラ座管弦楽団であることが注目される。この組合せで果たして華麗なデッカ・サウンドがどのようにヴェルディを表現するか。そして収録された曲の中には、欠くことのできない「シチリア島の夕べの祈り」と「運命の力」のそれぞれの序曲の他に、あまり知られていないオペラの前奏曲やバレエ音楽が盛り込まれ、前の2つの録音とは全く同じとはならない選曲になっていることは評価されるべき配慮である。
私は前に述べたトスカニーニのモノラル録音しか持っていなかったので、これはさっそく「買い」の結論を下し、ネットで注文した。最新録音のCDを買うのは久しぶりだが、実に気分がいいものである。ついでにワイラースタインが独奏を務めるエルガーのチェロ協奏曲も買ったが、これはまた別に書こうと思う。
さて、そのスカラ座管弦楽団であるが、これはもうヴェルディなどのイタリアオペラの最高の殿堂で、老舗中の老舗である。まさしく「我らが音楽」ということになるが、そのスキルがどうかと言うとこれが少し微妙と言わざるを得ない。私の知る限りだれが演奏しても同じような音色になる傾向があり、まあイタリアのオペラ音楽とはそういうものかと思うことにしているのだが、今回のシャイーによる演奏でも同様であった。そしてデッカの録音は、透明で分離のい良いいつもの響きに統一されるというよりはむしろ、このオケの味わいを保つことに重点を置いたようだ。少し色あせた古い高級家具のような味わいである。音の捕り方がやや昔風で、ワンポイントに近いということだろうか。
音楽は軽やかなシャイー節である。ロッシーニと違いヴェルディはパンチの聞いた迫力と、美しいカンタービレが交互に現れるが、トスカニーニのようにアクセントを強調することはない。「椿姫」の第1幕への前奏曲などは、その特徴が際立っている。「マクベス」の前奏曲は陰影に富んでとても美しいと思った。 また「ナブッコ」の序曲ではあの「金色の翼に乗って」のメロディーがオーケストラで演奏される。
「イェルサレム」の序曲を始めとしてバレエ音楽が多く収録されているのが特徴である。いずれも初めて聞く曲だが、最近はBGMにこのCDを聞き流している。音量を少し小さめにして、晴れた冬の日の日中を過ごすのは悪くない。そして「運命の力」はさすがに迫力があってトスカニーニを思い出すくらいに素晴らしい。
【収録曲】
・『シチリア島の夕べの祈り』序曲
・『アルツィラ』序曲
・『椿姫』第1幕への前奏曲
・『海賊』第1幕への前奏曲
・『ナブッコ』序曲
・『イェルサレム』序奏とバレエ音楽
・『ジョヴァンナ・ダルコ』序曲
・『アイーダ』第1幕への前奏曲
・『マクベス』第1幕への前奏曲
・『運命の力』序曲
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