ピアノ協奏曲第2番を取り上げたついでに「パガニーニの主題による狂詩曲」を久しぶりに聞いてみた。この2曲はよくカップリングされてLP1枚に収められていた。私の長年の、そして唯一の愛聴盤は、ウラディミール・アシュケナージのピアノ、アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団の70年代の演奏である。だが今回はもっと新しい録音で聞いてみることにした。買ってもほとんど聞いていなかったCDがあったからだ。ピアノは中国人のラン・ランで、ワレリー・ゲルギエフが指揮するマリインスキー劇場のオーケストラが伴奏を務めている。
私の高校時代の同級生は、この曲が大好きであった。彼は私が彼の家を訪ねていくと、いつもこの曲をレコードでかけた。そして有名な第18変奏の部分が来ると、決まってこう言った。「ここは映画音楽や。『振り向けば君がいて』の曲だよ。」だが、私はそんな映画を知らなかった(今でも知らない)。けれどもなんとなくその話を信じ、なるほどなと思った。振り向いたところで誰もいない彼の家で、2人はいつもそのカンタービレに聴き惚れていた。なんて美しいメロディーなのだと。
ラフマニノフは一発で人を惹きつけるメロディーを思いつく天才だった。あのパガニーニの独奏曲「カプリース」のメロディーからこの曲は生まれた。この曲は狂詩曲(ラプソディー)というタイトルが付いているが、実際にはピアノ協奏曲風の変奏曲である。変奏曲とは、私が中学校の音楽の時間に習ったところでは、原曲の和音を保ちながら、拍子や強弱をアレンジするもので、確かモーツァルトのピアノ・ソナタか何かの曲をサンプルにした解説を聞いた。それがロマン派の後期ともなると原曲を留めないほどの曲となり、それだけで独特の世界を形成している。
原曲がはっきりとわかるのは序奏から第5変奏あたりまでで、ある時はジャジーな曲に、ある時は勢いのある行進曲風に、ある時は夜想曲のように、次々と姿を変えていく。常にピアノが技巧的なメロディーを絡めるので、聞いていても興奮してくる。このように何度も音形を変えて、盛り上がったり遅くなったりしながら、やがて深く陰鬱なメロディーとなる。アン・ニュイな曲がしばらく続くな、と思ったら突然、きれいな旋律をピアノが始める。第18変奏の突如現れるメロディーは、もはや原曲を想像することもできない。
朝の通勤電車の中でこの曲を聞いていると、丸で映画の一シーンのように眼前の光景がセピア色に変わるから不思議だ。急にこみ上げる若いころの悲しい気分が、朝日を浴びて輝く寒い冬の街にこだまして、丸で時間が止まったかのような錯覚に陥る。その間わずか数分。やがて次の変奏曲になり、そのままコーダを目指して突き進む。
ラン・ランの演奏は実演で聞くととても考えていると思わせる。だが録音された演奏ではそのあたりが伝わりにくい。けれどもこの音楽は、大変華やかで感傷的である。あまりそういう難しいことは考えずに、いい録音で楽しみたい。幸い、ゲルギエフのロシア風な伴奏がとても魅力的だし、それに何と言っても録音に独特の奥行きと残響があって、大変ゴージャスである。決して煽る演奏でもないのにエキサイティングで、この曲の聞かれるべき代表的なディスクのひとつだと思われる。
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