ヴェルディ生誕200年の今年は、ヴェルディ全作品を網羅した映像作品がリリースされた。ヴェルディ音楽祭を開催しているパルマ王立歌劇場(レッジョ劇場)での2006年からの上演を、ブルーレイ・ディスクで楽しむことができる。その中には、最初の作品である「オベルト」や失敗作となった喜劇「王様だけの一日」なども含まれ、その全てには日本語字幕も付けられている(日本版)。
このビデオは由緒あるUnitelが制作しているから、歌劇場は小さいもののそれなりの水準の舞台だろうと想像がつく。そしてそのうちのいくつかを映画館で上映する催しが行われ、私はこれまで「アイーダ」、「仮面舞踏会」、そして「リゴレット」を見てきた。これでおしまいか、と思っていたら、その他の作品を含め、有名な十もの作品を一挙に上映するというチラシが目に留まった。東京都写真美術館で毎日2作品ずつを、12月いっぱい上映するという触れ込みである。
最初は「椿姫」で、10時の会場前には早くも列ができていた。何せ「椿姫」だから人気があるのだろう。配役はヴィオレッタにソプラノのスヴェトラ・ヴァシレヴァ、アルフレードにテノールのマッシモ・ジョルダーノ、ジェルモンにバリトンのウラディーミル・ストヤノフとなっている。指揮はユーリ・テミルカーノフ、演出はカール・エルンストとウルゼン・ヘルマン(夫妻)。収録は2007年である。
上映はMET Liveとは違い、ブルーレイと同じ映像をそのまま流す。よって休憩はない。音声は5.1乃至は7.1chのサラウンドであると期待したが、ここの上映スペースは音響効果が悪いのか、何かモノラル録音のような悪さである。前方の中央席に陣取って観たが、何とも音が悪い。これに慣れるのに結構な時間がかかる。
演出はオーセンティックなもので、今ではあらすじ通りの「椿姫」は貴重である。久しぶりに「椿姫」を見たという思いに浸った。だが、最近では当たり前になったように前奏曲の最初から、幕が開く。中央に大きな食卓が設けられ、ヴィオレッタはその上に乗ったり降りたり。「ああ、そはかの人か」~「花より花へ」では、最近では珍しくハイ音を上げて響かせる。
第2幕の演出は少し特徴的だ。まず季節が冬である。パリ郊外の館の外からドアを開けて登場人物が出たり入ったり。ガラスの窓から外が見える。ここでのジェルモンとヴィオレッタのやりとりは、この作品の聴かせどころが満載である。だがこの作品では、ヴェルディによくある父と娘の関係が、姿を変えて登場する。ヴィオレッタは娘ではなく、息子の恋人なのである。こともあろうに父は、息子と別れてくれるようにと頼みに来る。散々もがいた挙句、ヴィオレッタは別れる決心をするが、その時に発する言葉が「最後に、娘として抱いてください」と言うのだ!
ここにヴェルディの隠れた気持ちが投影されている!父はやけくそになってフローラの館に戻る息子の愚行の場にも駆けつけ、そして最後にはヴィオレッタの病床にまで姿を見せる。そこでとうとう「あなたを父として抱擁します」と言うのだ!これは娘を失ったヴェルディの、屈折した愛情物語である。ここで父は息子を許し、ヴィオレッタをも許す。こんな物分かりのいい父親は、他にはいない。
第2幕の後半の、歌また歌のシーンは、この作品がやはり素晴らしい作品であることを再認識するものだ。まずはじめにジプシーの女が踊り、続いてスペインの闘牛団が踊る。私はここのシーンが大好きである。賭けに勝ち続けるアルフレードのシーンは、見ていて心臓がドキドキする。そのドキドキが音楽になっている。札束を叩きつけるアルフレードの前に父が現れるシーンは、もっと印象的に上演して欲しかった。舞台がやや小規模で、ちょっと物足りないように感じるのは、メジャーな上演を見すぎているからだろう。イタリアの地方都市の舞台である。そもそも「椿姫」はこのくらいの規模のオペラだと思う。
第3幕になると「過ぎ去りし日」、そして「パリを離れて」と見どころが続く。形見に肖像画の入ったペンダントを渡すシーンは、すすり泣きも聞こえる。中央に置かれたベッドの上に倒れるヴィオレッタ。全幕とも対称的な配置によって、「語りすぎない演出」の効果が見事に出ている。
歌手は手堅く、超絶的ではないが平均以上の出来栄え。容姿もいい。ジェルモンが少し若く、しかもロシア系の顔だが、まあこれくらいは仕方がない。指揮のテミルカーノフも、カーテンコールでの拍手と歓声からその人気が伺える。
※その後同じ会場で「イル・トロヴァトーレ」も見たが、こちらは結構ヴィヴィッドな録音であった。従って音の悪さは会場の装置にいよるものではなくて、元の録音自体にあるように思われる。
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