
その釜石には釜石観音が大きな姿を太平洋に向けて立っており、深い入江と小高い丘に囲まれたとても風情のある町のように思えた。だが、中心地に向かっていくと実にこじんまりとした町であることに驚いた。事前に想像していたよりもはるかに小さな市には、最大で9万人いた人口も減り続け、今では半分以下の3万人台だという。
博物館からは紺碧の海に向って立つ釜石観音の後ろ姿がよく見えた。敷地内には軽便鉄道で使われたSLも展示されていたが、駐車場の上のスペースには仮設住宅が立ち並んでいる。夕方の4時をまわるとあたりはひっそりとして、よく晴れた穏やかの日でも淋しく寒い。私はかつて旅行した世界のどこに似ているか、などと考えてみたが、よくよく思いつくのは大西洋の孤島マデイラである。もっともその中心のフンシャルは、今では客船も停泊するリゾート地だが、そこから少し隔てた谷間の集落は、どこか三陸地方に似ている。
ここもまた造成中のニュータウンのようになった市街地を運転していると、いきなり被災当時のままの建物がそのまま残されていたりして驚く。だが、今では町にも自動車が溢れ、私の通った時刻は丁度帰宅のラッシュであった。カーナビの渋滞マークが初めて表示され、私はその釜石街道を遠野市方面へ走らせるうち日が暮れた。三陸は夕陽が山に沈むので、暗くなるのが早い。
釜石の町を抜け、高速道に入るまでは結構長い道のりで、その間、多くの商店などが立ち並んでいた。少し都市風の生活の雰囲気を感じた。途中、中学校の前を通った。クラブ活動でライトをつけ練習中の学生を見ながら、私は釜石の学校で震災と同時に全員が山に駆け上り、ほとんど被害が出なかったというニュースを思い出した。
遠野市に入ると、それまでなかったショッピングセンターやファーストフードの店が目に入ってきた。「遠野物語」のふるさとは僻村のイメージだが、三陸地方に比べると広く開けているな、と思った。だが、そこから北上市に向かうと、金曜日の夜まだ7時だというのに、何十分も前後に車が走らないような山間部を通る。一桁の気温も日没とともに下がり始め、内陸のせいか雨が降ってきた。私はレンタカーのヒーターを入れ、ライトをハイビームにして慎重に運転を続けた。
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