2013年12月12日木曜日

ヴェルディ:歌劇「イル・トロヴァトーレ」(パルマ王立歌劇場ライブビュー)

ストーリーの展開があまりに唐突で、ドラマとしての完成度が低いと言わざるを得ないような部分が「トロヴァトーレ」にはあって、そのあらすじを知れば知るほど、舞台を見ている方は白けてくる。オペラではそれを補って余りある歌の魅力が、これを覆い隠すことがあるのだが、「トロヴァトーレ」の場合は少し微妙と言わざるをえない。話が変でも、そこに登場人物の心理的な内面描写があればいいのだが、残念ながらその要素に乏しい。しかしここに付けられているのは、紛れも無くヴェルディの力強い音楽である。

ヴェルディのより完成度の高い作品を知れば、「トロヴァトーレ」の見方は、それらと同じではいけないことに気付く。聞くほうが少し工夫をして、この作品は血沸き肉踊る音楽、歌を聞くものと割り切る必要がある。そうした時、「トロヴァトーレ」は生きた作品となって目の前に現れる。もちろん、それなりの舞台・・・歌手と指揮と合唱が揃って名演を繰り広げれば、の話だが。

さて、このたびはパルマ王立歌劇場のビデオ作品からTutto Verdiの一つを見たことの感想を書くことになるのだが、このビデオはBlu-rayとして字幕付きで売られているUnitel制作のもので、2010年パルマでのヴェルディ・フェスティヴァルでの上演。マンリーコにテノールのマルセロ・アルヴァレス、レオノーラにソプラノのテレーザ・ロマーノ、ルーナ伯爵にバリトンのクラウディオ・スグーラ、アズチェーナにメゾ・ソプラノのムジア・ニオラージェ、ユーリ・テミルカーノフの指揮、ロレンツォ・マリアーニの演出という顔ぶれである。

歌手の中で特に有名なのは、タイトル・ロールを歌ったアルヴァレスである。彼の歌声は艶があり、力も加わってこの若き武将の純粋な一途さと直情径行な愛情表現を、それは見事に歌いあげた。だが、この舞台でまず最初に評価をしたいのは、ルーナ伯爵を歌ったスグーラである。やや痩せていて、若いバリトンはその存在感も抜群で、最初から最後まで息をつかせない集中力と表現力で見るものを圧倒した。ただ残念だったのは、ルーナ伯爵の衣装があまりに高貴さを欠いている点だ。武将たち(合唱団)に交じると存在が浮き立たない。これは演出上の問題点だろうと思う。

一方、ロマーノのレオノーラは力演で、少し荒いところも合ったが、それはこの舞台が彼女にとってピンチ・ヒッターだったからだろうと思う。であればこの歌手の出来は相当褒められるべきだろう。特に終盤に進むに連れて、その体当たり的な熱演は、唯一この物語で純真無垢かつ可哀想な死を遂げる女性の哀しさを表現した。

アズチェーナの二オラージュも代役だそうで、そのことを差し引いても、これはこれで聞ける悪役である。ただジプシーの呪われた女というには、衣装を含めちょっと美しすぎる。第2幕のコーラスでもそのことは言える。舞台に並んだコーラスは、何かお祭りの歌を歌っているように陽気に聞こえる。金槌も印象的には鳴らず、あのおどろおどろしさが乏しいのだ。

全体に演出に対する不満は、少し述べておく必要があるだろう。簡素でしかも滑稽な読み替えをしないことには好感が持てる。だが、舞台中央に掲げられた満月を除けば、いかにも中途半端である。歌に集中させるというなら、それはそれでもう少し工夫の余地があっただろうし、そうでないなら原作に忠実に、ジプシー色を出して欲しかった。

指揮は歌にうまく寄り添い、十分に劇的であると同時に精緻でもあった。総じて言えば、音楽の素晴らしさで満点に近く、このビデオは一度は見ておく価値がある。初心者なら、このビデオを何度も見れば、ヴェルディ中期の傑作を堪能できること請け合いである。CDなら完璧だったかも知れない。けれども演出には今ひとつの傑出した部分が感じられない。ビデオとしてずっととっておくには少し物足りない。購入するとなると、そのことをどう考えるか。一般的な舞台収録と異なり、拍手やカーテンコールは少ない時間に抑えられている。ライブなら、もう少し歌のたびに余韻に浸りたかったという思いが私の場合、どうしても残った。

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