バルトークを得意としたピアニスト、ゲザ・アンダはハンガリーの出身である。私が中学生のころ、我が家にはモーツァルトのピアノ協奏曲第21番イ長調K488のLPがあり、「みじかくも美しく燃え」という映画にサウンド・トラックとなった第2楽章を良くい聞いたし、カラヤンと共演したグリーグのピアノ協奏曲イ短調は、学校での音楽の授業で先生がかけてくれた演奏だった。そういうわけでアンダというピアニストは、古くからの思い出でもあった。
そのアンダの名演を集めたCD(ドイツ・グラモフォンのCentenary Collection)が目に留まり、聞いたことがない曲ばかりだったが衝動買いをしてしまった。その中に、シューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」などとともにモーツァルトのピアノ協奏曲第14番が収められていたのだ。
恥ずかしいことに、この曲を聞くのはほとんど初めてだった。だから誰の演奏で聞いても良かったのだが、このアンダの演奏は私を一気に彼のモーツァルトの世界へ引き込んでいった。揺らぎの多いテンポ、衝動的なフレーズ、音楽がオーケストラと掛け合うという表現がピッタリの個性的なモーツァルトがそこにあったのだ。彼のマジャール人としての気質がモーツァルトにも反映していると思った。そして驚くべきことにオーケストラはまた、彼の指揮で演奏している。よくピアノに絡みついて行っているのである。
大人しい80年代の演奏を経て、その反作用としての90年代の古楽器演奏を聞いた後になっても、この60年代の個性的な演奏は新鮮である。いや音楽というのはある程度の即興性と、感情の自然な発露を表現しているのが自然だとも思える。音楽が常に「正しい」表現に向かうなら、こんなにつまらないことはない。だから揺れ動くのはまた大歓迎である。もちろんテクニックを伴っての話であると思うが。
さてピアノ協奏曲第14番である。この作品はモーツァルトがウィーンに引っ越してから3年目にあたる1784年から1785年にかけて作曲された。第14番から第19番までの一連の6曲のうちのひとつである。ケッヘル400番台の中頃はモーツァルトの絶頂期とも言うべき頃で、あの「フィガロの結婚」が1786年である。ちなみにコンスタンツェとの結婚は1782年である。
第1楽章の冒頭は弦のユニゾンが印象的。3拍子のリズムに乗ってピアノが登場するまでの主題での健康的で厚みのあるフレーズが心地よい。ピアノは落ち着いた演奏で聞くのも良いが、アンダのやや先を急ぐような表現はまた、若いモーツァルトのじっとしてはいられないような勢いを感じさせてもくれるようで、私は好感を持っている。
第2楽章は丸で小さな赤ん坊を愛しむような美しさを持ち合わせている。アンダの演奏は明晰なタッチが生き生きと捉えられており、アナログ録音の味が出ている。そこがかえって古き良き時代を連想させ、懐かしくもある。
第3楽章は何かバロックのような出だしで、独奏部の曲調がピアノというよりはフォルテピアノのイメージである。そのフレーズは何度かの合間に顔を出す。つまりロンド形式である。20分程度の曲ながら退屈することなく十分に聞いた感じを残すのは、モーツァルトの音楽が充実している証拠だろう。
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アンダ大好きです。
返信削除私にとっても思い出のピアニストです。
素敵なブログに出逢えて嬉しいです。
ありがとうございます。
コメントいただきありがとうございます。数年前より好きな音楽や演奏などを気が向いたら書き留めています。ごく個人的な内容なので誰も読む人などいないと思っておりましたが、共感いただいたようで嬉しいです。
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