

仏塔は、その急峻な角度によって丸でトウモロコシが空に突き出たような格好である。掘られた彫刻も見事だが、階段がついていてここを昇ることができる。階段は3階層になっていたかと思う。高所恐怖症の妻は最初の階段で挫折したが、息子と私は最上位まで上った。お寺はチャオプラヤ川に面しており、周りに高い建物はないから、仏塔の上からはバンコク市内を見渡すことができる。その景色も美しいが、仏塔がそびえる光景もまたバンコクの象徴的な風景である。
20年前に来た時に比べると、バンコク市内のあちこちに高層ビルが林立している。だが、王宮とその周りの雰囲気は変わらない。そして客待ちのタクシーやトゥクトゥクとその悪どい手口も!
それで私たちは一度はぼられそうになりながらタクシーを拾い、東急百貨店が入るバンコク一のショッピングセンター、MBK(マーブンクロイン)にやってきた。その光景を見て驚いた。ショッピングセンターは昔のままだったが、その周りの風景が丸で違っているのである。かつては、その周りには何もなかった。ジム・トンプソンの家という観光スポットは今でもあったし、そのすぐ近くの中級ホテルも健在だったが、周りにはもっと多くの高層ホテル、超高級なショッピングセンター(これら空き地だった)、そして空中を走る交通システム。まるで宇宙都市に来たような錯覚を覚えるその下を、何車線もある道路が走っている。だがそこにかつて黒い排気ガスをまき散らしながら何重にも停車していた路線バスは見当たらない。

かつてバンコクには地下鉄やBTSはなく、わかりにくくて混雑間違いなしのバスに乗って渋滞の中を行くか、それともうだるような暑さの中を歩いたものである。だが今では空調の効いたBTSが走る。ここシーロンから隣のチットロムにかけての光景は、全然別の都市に来たような感覚である。え、あのバンコクが?と私は何度も自問した。そのそばを、日本や中国から来た若者のグループや家族連れが、さっそうと歩いて行く。
BTSでサバーン・タクシーン駅に戻る間中、新たに出来た高級ホテルやブティック、それに公園の向こうに広がる高層ビル群を私は眺めた。そこにはかつて私の胸を踊らせたあのバンコクは、ほとんど失われていた。代わって、東京よりも活気があり、好調な景気に湧くアジアの国際都市が出現していた。噂には感じていたが、まさにその光景が、そこにはあった。そして私が好きだった物価の安いバンコクは、少し陰を潜めていた。だが考えてみれば、それは当然だった。バンコクは昔から、アジアだけでなくヨーロッパ、オーストラリア、中東の観光客が出会い、たむろし、歩きまわるところだったからだ。その雰囲気は、今でもかわらなかった。バンコクの魅力は、常に進化していたということだろう。
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