2014年4月22日火曜日

国鉄時代の鉄道旅行:第14回目(1986年9月)⑥

北海道に来て6日目となった。ようやく薄い日が差してきたが、もう帰りにつかなければならない。札幌を出て夜中の青函連絡船に乗るために、一日かけて函館まで移動する。往きは函館本線経由だったので帰りは室蘭本線経由とすることにした。とは言っても札幌からはまず、千歳線で千歳空港まで行く。札幌と苫小牧の間は、より正確には白石と沼ノ端の間は、室蘭本線ではなく千歳線である。室蘭本線は苫小牧から追分を経て岩見沢へ北上するルートをとっている(他にも根室本線は起点が滝川であり、また函館本線は終点が旭川である。ややこしい)。

千歳空港駅は、今の空港地下の駅ではなく、ターミナルからかなり離れたところにあって、この間を長い歩道で結ばれていた。現在の南千歳駅である。私はこの歩道を歩いて空港のターミナルまで往復してみた。空港も今の大きな空港ではなく、これが北の玄関口かと思うほど小さかった。

札幌から苫小牧までは札幌の近郊区間という感じで、北海道の大動脈である。特に苫小牧は大きな港や石油基地などがあり、工業地帯を形成している。北海道は人の少ない田舎ばかりではないが、かと言ってその苫小牧でもウトナイ湖のように、実に自然の豊かなところがあって、向こうには樽前山や恵庭山などがそびえる。考えてみれば、このような北海道の重要観光スポットに出かけるには、その付近に滞在しバスを乗り継ぐなどして行かなければならない。鉄道だけの旅行で北海道を堪能したとは到底言えないのだが、かといって時間やお金のない身ではどうしようもない。この時の旅行はまたいずれ訪れるだろうという期待を持つための、いわばプロローグであった。



苫小牧を出て室蘭に向かう海岸沿いには、アイヌの集落などがある白老や、温泉で有名な登別などがある。登別温泉は我が国有数の大規模な温泉で、その規模は草津や別府などと並ぶ。後年登別温泉の旅館に泊まって、何種類もの源泉を楽しんだが、そういう楽しみは今回の旅行では一切なかったというのが本当のところである。

室蘭は製鉄所のある町で、出っ張った半島になったところに室蘭駅がある。だが多くの列車は東室蘭から別れて噴火湾回リ始める。私はわざわざ東室蘭から乗り換えて室蘭駅まで往復したのだが、かといって室蘭という町を観光したわけではないというのが淋しいところだ。地球岬というような景色に触れるのは、3年後の大学4年の時で、この時は今回行けなかったような観光地を全て回るべく、自動車で北海道を一周したのである。

同じことは伊達紋別、洞爺湖、支笏湖、昭和新山、あるいは羊蹄山といったこの地域一帯に言える。当時は胆振線という路線も走っていたが、わずか1か月後に廃止されてしまう。2011年、私はその胆振線の走ってた虻田郡一帯をドライブしたのだが、誰も住んでいないようなところによく列車が走っていたものだと関心した。ここから長万部までの区間は、意外にも山がちの険しいところであった。だが電化されたトンネルの多い区間を特急列車が走り抜け、あっという間に特急「ライラック」は大沼公園に到着した。列車はビジネス客で結構混んでいた。

大沼公園で途中下車したのは、深夜の連絡船まで十分に時間があったからである。駅前の貸自転車屋で自転車を借り、湖の周りを一周した。北海道は道東もいいが、道南もなかなかいいと思う。特に大沼周辺は、明らかに内地(と北海道の人は本州を指して言う)とは異なる景観を有している。ただその時も天気は曇っていて、あの雄大な駒ケ岳を望むことはできなかった。

あまりに天気が悪い今回の北海道旅行は、私を次の北海道旅行へと誘う結果となった。それは3年後の北海道一周ドライブ旅行において、ひとまずは果たせることになったが、後に私は北海道出身の人と結婚をしたから、北海道は第2の故郷というほどに何度も出かけている。だがその結果、北海道は今やあまりに身近にあって、かつて抱いていた美しいイメージの国ではなくなってしまっている。それでも千歳空港に降り立ち、あの乾いた涼しい空気に触れると、ストレスが吹き飛ぶような気がしてくる。妻は「空気の濃度が濃い」などと言う。

北海道で最も歴史を感じさせる町が函館である。その少し手前、五稜郭で列車を下り、しばらく駅舎でたたずんでいた。幕末、ヨーロッパ風の建築を模して造られたお城も、皮肉なことに佐幕派の最後の拠点となった。ここから江差までの区間は、一度ゆっくりと旅行がしてみたいと思っている。2016年には遂に青函トンネルを通って新幹線が東京と結ばれることが決まっている。そうなると函館の街も、これまでのような「届かずの街」(ある自主制作映画のタイトルで函館が舞台。ポルトガルのリスボンと似たイメージもある)とは様相を一変することだろう。


夜になって北海道旅行の最後に、函館山へ上ることにした。バスで頂上まで行き、ロープウェイで下りた。函館の夜景は、言われているように多くの夜景の中でも群を抜いて素晴らしいと思った。ゆっくりと暮れていく函館の町にあかりが灯ると、両サイドから狭められた海岸線に沿ってくっきりと浮かび上がった。ようやく天気が晴れてきた。乾いた秋の風が夜景を一層引き立てた。津軽海峡を超えて吹いて来る風は、一層夜景を、さりげなくも固有の美しいものにしているように思えた。





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