1986年の大学入学以降、私の関心は主に海外旅行へと移った。折しも1ドル240円もしていたのが160円くらいとなり、空前の海外旅行ブームが巻き起ころうとしていた。「青春18きっぷ」が高校1年生の私を全国の鉄道旅行に駆り立てたように、円高は私を全世界へのバックパック旅行へと誘った。その後の10回以上、40ヵ国にも及ぶ旅行の記録は、またゆっくりこのブログにも書き記したいと思う。と同時に、私はまた、国鉄がJRと名を変えた後でも国内旅行をしなかったわけではない。ただもはや鉄道に乗ることは目的ではなくなった。以下は、国鉄分割後に出かけた新規乗車区間についての補足的記録である。
■北海道
私は1996年以降ほぼ毎年のように北の大地を踏みしめている。けれどもそれは妻の実家のある日高地方に行くためで、手段は概ね飛行機と自動車である。鉄道で帰省としたことは1度だけ、寝台特急「北斗星」に乗り青函トンネルを通って苫小牧で下車、その後静内まで乗車した。この区間は海のそばを走るなどなかなか風光明媚だが、私が乗った時は満員である上に天気も悪かった。普段はここを自動車で駆け抜けていく。浦河、様似といった方面へも何度も出掛けているが、列車に乗ったことはない。様似からさらに襟裳岬を回って広尾のある十勝地方へと続くが、ここの区間を含め、北海道の魅力的な地域にはほとんど鉄道が走っていない。
多くのローカル線が姿を消した。今時刻表の地図を見ると、北海道はほとんど骨と筋だけの体のようにやせ細っている。稚内へも知床へも何度か出かけたが、宗谷本線、釧網本線、留萌本線、札沼線、それに一度は行きたい江差線などは未乗のままである。あの津軽海峡をトンネルで渡るというのは複雑な心境である。そしてここをまもなく新幹線が走る。
■東北
津軽海峡線につながる津軽線と青森から盛岡までの東北本線には、昼と夜のそれぞれ1回ずつ乗車している。けれども後者は今や「いわて銀河鉄道」などという名称で呼ばれ、他の支線と分断された格好だ(こういう区間は全国に幾つかある)。このような切り捨て路線を考えても、今の鉄道旅行に魅力を感じない。
三陸海岸のほぼすべての路線と三陸鉄道、ローカル線の中のローカル線とも言うべき五能線、SL時代の写真が郷愁を誘った阿仁合線など、東北地方には魅力的な路線が数多くあった。だが、それらは今やレールバスのような1両の列車がへんてこな色を塗られて走る路線となっている。
私が東北を旅行するのも今や自動車が中心だ。そのような中にあって、山形で過ごした学生時代の春休み、友人たちと仙台に出かけるため仙山線に乗ったことと、米国から帰国した直後に角館を旅行した際に乗った北上線、松島観光で乗車した仙石線は思い出に残る。特に仙石線の野蒜駅は、東日本大震災の時に壊滅的な被害を受けたところで、私が泊まった民宿ももはやない。
■関東
東京に移り住んで20年が経過した。関東地方でJRになってから乗車した区間は、銚子までの総武本線、奥多摩に出かけた時の青梅線、仕事で仕方なく乗った南武線、武蔵野線、横浜線、川越線、埼京線、それに内房線の一部と成田線くらいである。未乗車区間はそれ以外の房総半島、水戸線、水郡線、両毛線など北関東に集中している。そう言えば鶴見線というのも、行こうと思えばいつでも行けるのだがまだである。
■甲信越
長野オリンピックの年に開通した長野新幹線は幾度と無く乗ったし、あの長野が通勤区間並みに近くなり、軽井沢がもはや関東の奥座敷ではなくなったというのには隔世の感がある。それに代わって信越本線の横川と軽井沢の間は、あっけなく廃止されてしまった。ここでも鉄道ファンの心がすさむ。今では私の未乗路線は身延線だけである。
■東海・北陸
関東と関西の間にある割には、私にとって旅行回数が少ないエリアである。能登半島は車で一周したので、もはや七尾線に乗ることはないだろう。城端線や氷見線といった「盲腸」線も鉄道ファンにはよく知られた魅力的な路線だが、私には一向に遠い存在だ。そういえば静岡には、一日一往復という清水港線というのが昔はあった。だがいつのまにか廃止されてしまった。
■近畿
JRになってすぐの年、私は友人と和歌山線に乗ったりした。だがそれを最後に近畿地方の未乗車区間はほぼなくなった。大阪近郊に新しい路線が開通したが、それらに私は帰省する時に乗っている。関西空港線、東西線などである。一方、早い時期に廃止された尼崎港線は、今から思えば乗っておきたかったと思っている。
■中国・四国
東京から遠いこのエリアで、JR時代になってから乗車した区間は瀬戸大橋を渡る瀬戸大橋線のみである。この地域は私にとって未乗車路線の宝庫となっている。おだやかで美しい瀬戸内海と、平凡な中にも独特の歴史的風情を感じる中国山地、哀愁を帯びた山陰の風景は私をいつかこの地の旅行へと駆り立てるだろう。47都道府県のうち唯一行ったことのない高知県も近い将来の目的地の一つである。廃止されたローカル線が少ないもの嬉しい。伯備線、姫新線、芸備線、山陰本線の松江以西、山口県内の路線、予讃線を除く四国の路線の全てなど、挙げるときりがない。
■九州
北海道と同様、九州地方の路線は見る影もないほどに減少し、もはや鉄道旅行など考えられない。にもかかわらず九州は鉄道旅行の人気が高い。これは信じられないことである。私の場合、2度にわたるクレイジーな旅行とその後の廃線の結果、現在運行されている未乗車路線は、おそらく三角線だけではないかと思う。すなわちあの高千穂橋梁も炭鉱地方の短い路線も、桜島の灰をかぶりながら走る大隅半島の路線も廃止されてしまった。九州新幹線は鹿児島中央と熊本の間をあっという間に駆け抜け、かつてもう一つの地の果てのような気がした南九州も日帰り圏内になってしまった。
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日本列島にはJRの他に多くの民営鉄道、地下鉄、それにモノレールなどがある。これらは鉄道というよりも、実はその沿線の風土に興味がある。特に地下鉄や近郊私鉄は、JRとは異なる文化を形成している。ニュータウンで育った私は、日本に限らず見知らぬ町の郊外がどのような風景をしているかに、昔から隠れた興味を持っている。特に観光地でもないこれらの地域については、また別にまとめて記そうと思っている。
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