2012年10月9日火曜日

ブリテン:歌曲「イリュミナシオン」作品18(S:バーバラ・ヘンドリックス、コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団)

ニューヨークのカーネギーホールでバーバラ・ヘンドリックスが歌うベルリオーズの歌曲「夏の夜」(Les nuits d'été)を聞いて感動し、直後にリリースされた時に購入した一枚。そのカップリングにブリテンの歌曲「イリュミナシオン」(Les illuminination)というのが入っていたが、私はこの曲をこれまでまともに聞いて来なかった。ここへ来てブリテンの音楽を聞こうと思い、手元にあったものから聴き始めている。それでこの初期の歌曲を初めてちゃんと聞いてみたというわけである。

ブリテンが第2次世界大戦中のヨーロッパを離れてアメリカに渡る頃に作曲されたこの曲は、色彩感に溢れてみずみずしく、若い感性の素晴らしさを湛えている。いわゆるブリテンらしい雰囲気もここではすでに十分に確立しており、そういう意味でこれは大変素晴らしい作品だと思う。

伴奏がコリン・デイヴィス指揮のイギリス室内管弦楽曲で、きっちりとした伴奏。大変好ましい。もともとソプラノのために書かれた曲なので、これをテノールで歌うものと比較してみたい気がするが、私はまず女声で聞くことになった。テノールのものでは、作曲者自身が指揮したピアーズ盤が有名で、最近になってボストリッジのもの(伴奏はラトル指揮のベルリン・フィル)が名高い。

フランスの詩人ランボーの詩に音楽が付けられている。つまりこれはフランス語である。

第1曲の「ファンファーレ」は弦楽器の象徴的なメロディーによって始まる。一度聞いたら忘れられないような感じ。で、ここで歌われる歌詞は"J'ai seul la clef de cette parade sauvage."英訳されたものは"I alone hold the key to this savage parade."となっている。浅学非才な自分が訳すと「ただ私だけが、この野蛮な行進の鍵を持っている」となってしまう。???。そもそもパレードとは、商店街の行進を思い浮かべるが、「見せびらかす」という意味が含まれている。もっとも語源は古いフランス語なのでフランス語の辞書をひくと、「客寄せの道化」という意味があることがわかる。それでこのランボーの詩は「客寄せ道化」と訳されている部分の最後のフレーズだ。ではその客寄せ道化とはどういう意味なのか。何を喩えているのか。やはりわかりにくい。

第2曲は「都市」。都市と言えばパリだろうか(いやロンドンだろうか)。近代的なもののイメージが音楽によって表現されている。躍動感があり印象的。Ce sont des villes!(これが街というやつだ!)という歌詞が何度も登場し、これはわかりやすいのですぐに覚える。私ははじめてニューヨークのマンハッタンで暮らし始めた頃を思い出した。

第3曲「フレーズ(断章)」と「アンティーク」。いずれも短くとらえどころがない。ここらあたりからはあまり深く詮索しないで進もう。第4曲「王権」。このあたりからは快活な音楽に戻り、第5曲「マリーン」。音が細切れになって、ピチカートがとても印象的。第6曲は「間奏曲」で再び冒頭の歌現され、いよいよ第7曲「美しくあること」。そして第8曲「パレード」。再び「野蛮な客寄せ道化の鍵」が出てくるこのあたりがこの歌曲のクライマックスで本質的なところのようだ。だが詳細は省略。

最終曲の「出発」は静かな曲で、何か悟りきった感じ。この曲を締めくくるに相応しいと感じたのだろうか。「夏の夜」同様、狂おしいばかりの若者の苦悩がこのCDの共通のテーマである。

0 件のコメント:

コメントを投稿

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための協奏曲イ短調作品102(Vn: ルノー・カピュソン、Vc: ゴーティエ・カピュソン、チョン・ミュンフン指揮マーラー・ユーゲント管弦楽団)

ブラームスには2つのピアノ協奏曲、1つのヴァイオリン協奏曲のほかに、もう一つ協奏曲がある。それが「ヴァイオリンとチェロのための協奏曲」という曲である。ところがこの曲は作品番号が102であることからもわかるように、これはブラームス晩年の作品であり(54歳)、すでに歴史に残る4つの交...