歌劇「ピーター・グライムズ」を見たら幕間に流れる間奏曲が実に効果的であることに感動し、そう言えばうちにもその間奏曲を集めた管弦楽曲「4つの海の間奏曲」のCDがあったことを思い出した。さっそく聞いてみると、さすが本場の演奏だけあって実際に見たオペラでの演奏よりもまた1枚も2枚も上手の演奏ではないか、と思った。何をおいてもオーケストラが実に見事に曲を弾きこなしている様子が伝わって来るので、この曲をこれまでちゃんと聞いていなかったことが残念に思えてくる。
実は数年前にもこの曲を実演で聴いている。その演奏は極めつけのコリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団で、来日時の公演の最初のプログラムだったのだが、私はその時がこの曲を聞いた最初の経験で、あまりおもしろい曲に聞こえなかったのか、記憶がほとんどない。今回手元のCDで聞いたのはBBC交響楽団によるもので指揮はアンドリュー・デイヴィスである。だがこのコンビによる演奏もなかなか素晴らしいと言える。録音がまた実に良くて1990年。
「4つの海の間奏曲」はその名の通り、歌劇「ピーター・グライムズ」の間奏曲を4つ集めたものだ。そしてさらに「パッサカリア」もしばしば併録されるが、その対応関係は以下の通り。
第1曲 夜明け プロローグと第1幕の間
第2曲 日曜日の朝 第1幕と第2幕の間
第3番 月光 第3幕第1場と第2場の間
第4番 嵐 第1幕第1場と第2場の間
パッサカリア 第2幕第1場と第2場の間
すなわちオペラの順に聞こうとすると、第1曲→第4曲→第2曲→パッサカリア→第3曲となる。
パッサカリアというのはもともと荘重な舞踊音楽のことだが、様々な作曲家によって作曲され、ブリテンの場合もなかなか聞いていて興奮する曲である。どの曲のどの部分をとっても、いわゆる「ブリテン節」のような確固とした作風が支配的であることはオペラを見たあとでは大変良くわかる。
北海の寒々とした海の情景を、これほどにまで見事に描写した音楽はないだろう。ブリテンゆかりのオールドバラがどこにあるのか、私は地図で確かめた。ここはかつて私が初めて英国を旅行した時、オランダから船でついたハリッジに近いことが判明した。だが、ここで描かれた北海の海は、1830年頃となっているし、ブリテンが作曲をしたのも第2次世界大戦の頃である。
文章で書くのははなはだ難しいが、「夜明け」の冒頭でバイオリンが静かに音程を上がったり下がったりするかと思えば、木管がピロピロと鳴り様子は寒い風がふく感じ。本当にそこにいるような気がしてくるが、静かで乾燥した透明な印象も独特である。
「日曜日の朝」はオペラでは教会に集う村人が描写されていたように思う。朝日が輝いているが、南国のような華やかさは感じられない。形容が難しい。だがここの音楽は不思議な魅力がある。「月光」も同じで、時おりパキッと響く木琴の音色が、丸で月の明かりに照らされて光る波を思わせる。「嵐」でのこの演奏の迫力と実力はなかなかのもので聞いていて興奮する。オペラでも幕が降りたままでピットから聞こえてくる音楽は、想像力を掻き立てて否応なしに私たちを北海の海へ連れていくのだ。
ブリテンの作風を短時間で知るには、この曲を聞くのが一番だろうと思う。そしてオペラを思い出しながら、その時の気分に浸るにも最適な音楽、そして演奏である。
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