2012年6月19日火曜日

ハイドン:交響曲第39番ト短調(トマス・ファイ指揮ハイデルベルク交響楽団)


この39番は大変な曲だ。モーツァルトの交響曲で短調で書かれているのはいずれもト短調であることは良く知られている。その悲劇的で激情的な魂のほとばしりは、しかしながらこの曲がなければ生まれなかったに違いない。そしてよく関連が指摘される25番の交響曲(小ト短調K183)よりも完成度が高いように私には思える。

手元にある3つの演奏を比べてみると、その表現の違いを実感するが、それを超えて曲の個性が際立つ。お薦めは、ファイによる仕掛け満載の演奏。第1楽章から張りつめた緊張感が、充実の響きを生み出す。このような曲によくあるような、せっかちな雰囲気を感じさせないのがいい。

この第1楽章を聞くと、私はむしろK516(弦楽五重奏曲)を思い出す。この曲もト短調(いわゆる「走る悲しみ」というやつ)。ホルンを4本使用し、2本づつで使い分ける点ではK183と同じ。さらに言えば、時折挟まれる小休止は、ジュピター交響曲(K551)を思い出す。

ファイの演奏では、比較的単調になりがちな中間楽章でチェンバロの響きが色を添えている。第3楽章トリオ部分はしっとりと味わい深い。

もっとも素晴らしい第4楽章は怒涛のフィナーレである。木管楽器が高温でパーッと吹かれるさまは、オリジナル楽器風による演奏の真骨頂である。


0 件のコメント:

コメントを投稿

第2039回NHK交響楽団定期公演(2025年6月8日NHKホール、フアンホ・メナ指揮)

背筋がゾクゾクとする演奏だった。2010年の第16回ショパン国際ピアノコンクールの覇者、ユリアンナ・アヴデーエワがラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」の有名な第18変奏を弾き始めた時、それはさりげなく、さらりと、しかしスーパーなテクニックを持ってこのメロディーが流れてき...