状況が変わったのは、やはりインターネットの発達による。今や世界中に張り巡らされたIP網によって、どこの国の放送であったも大変いい音質でラジオ放送を聞くことができる。音楽やFMだけでなく、かつて短波放送の主流だったBBCニュースやVOAも、いまやインターネットに移行した。だが、簡単な操作性でこれを聴けるようになるには、長い道のりであった。
私がインターネット放送に接したのは、2006年だったと思う。赤坂のフレンチ・レストランでフレンチ・ポップスが流れていたので、店のマスターに訊くとインターネット放送だと教えてくれた。もちろんそれ以前にもストリーム放送は知っていたし、いくつかは低い音質ながらも私のPCを鳴らしていた。だがそこで流れていたのは、地元のFM放送に引けを取らない高音質のステレオ放送で、おまけに軽快なフランス語のDJも付いている、いわば本場のFM放送そのままのストリーミングだったのである。
回線がADSLから光となって、私の新しいPCにはiTunesを搭載し、その中でいくつかの放送を聴くのが私の趣味だった。けれどもラジオを聴くためにPCを立ち上げ、その前に座って操作するというのはいかにも負担だった。もっと手軽に、しかも高音質で楽しめないものかというのが私の課題だった。
当面考えたのは、PCの再生音をラジカセに飛ばすことである。そこでまずはONKYO製のCDラジカセを買った。そこにはiPodのドックもついていたので、当面はiPodを再生するのが目的だった。だがiPodの再生音は、FMやCDの音に比べて小さい。ONKYOに聞いてみたが、そういうものだとの返事であった。そこでiPodを手元のアンプにつないでみたのだが、やはり大変に音質が悪い。このためiPodを大音量で聴くということをあきらめざるを得なかった。
次に試したのがFMトランスミッターによる転送である。このためFMトランスミッターの装置と、アクティブ・スピーカーを購入し、PCに接続した。だが、FMトランスミッターは車の中のような狭い車内でこそ有効のようだが、近くに行かないと綺麗に伝送されない。それでは直接接続するのと変わらず、しかもその方が音質がいい。だが少し離れたところで再生したいので、これはやはり続かなかった。

1万円近い投資だったが、その効果は抜群でドイツのインターネットラジオをBGMに過ごした日々がある。だが、この無線の装置は干渉を受けやすく、しかも直接受信ができる直線距離でないとノイズが混入する。ラジオを聴くたびに3つの機器のスイッチを入れ、切り替え装置を操作するのは何とも大変である。しかもUSBの接続口が低い位置にあるので、これを上に持ち上げるため延長コードを壁づたいに這わせる必要があった。これでは手軽というには程遠い。
同じ年にPioneerのアンプA-A9を購入したが、ここにはUSBの入力インターフェースが付いていた。これはUSB DAC付きのアンプということである。そこで私は早速PCを接続してみたが、たしかにいい音は鳴る。それは素晴らしいのだが、そのために自席からオーディオ装置までの10メートルを有線接続する必要があった。このためのコードをいつもそばに置いておくことが、やはりネックだった。PCを立ち上げる必要もあったし、PCをラジオ専用にしないと、CPUの負荷が増して音が途切れる。私のPCは大変遅くなっていた。
手軽なインターネット放送は昨年iPad2によって初めてもたらされた。そこでは実に軽快に選曲が可能なアプリをいくつか無料でダウンロードできる。地図上から放送局を選択するあたりは大変楽しいし、画像、すなわちビデオ放送も楽しめる。音質は小さいスピーカーとしては悪くはないが、大きな音量で聞くことができない。また無線LANの環境が前提となるので、そのための投資が必要だ。我がマンションは数多くの電波が飛び交っているので干渉が激しかった。最初はそれがわからず、ルータの設定に何日も費やす始末である。
このような長い道のりを経て、ようやくネット・オーディオの環境が整った。無線LANやiPad2も役に立っている。しかも数年前とは異なって、ネット放送の音質は飛躍的に向上している。インターネットで聴くクラシックやジャズの専門チャンネルは、私の場合どこかの放送のライブであることが多いが、いずれも選曲やアナウンスに趣があって大変好ましい。これで遂に、手軽な世界の放送を居ながらにして聞くことができるようになったのである。
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