2012年7月12日木曜日
ハイドン:交響曲第60番ハ長調「うかつ者」(サイモン・ラトル指揮バーミンガム市交響楽団)
ハイドンの交響曲を聞き続けてきて、いわゆる疾風怒濤期と呼ばれる、少し荒っぽい作風の多い時期を過ぎると、明るく陽気なハイドンの姿が現れる。その後の、例えばパリ交響曲やロンドン・セットなどと比べると、やや簡単に過ぎるきらいもあるが、この時期のハイドンの作風は、乗りに乗った勢いのようなものが感じられる。
そのような時期への入口にある象徴的作品として、この60番の交響曲を挙げることもできよう。「うかつ者」と題されたこの曲は、同名の舞台作品のために書かれたもので、何と6楽章もある!それは戯曲の中で用いられた作品を抜粋して編成されたからだが、ではその音楽はと言うと、これがまた面白い。
簡単な序曲に始まり快速の第1楽章となるが、ここで後年の作品にもよく見られる、音楽が消えていくような感じが時々訪れる。そして急に大音量!何もなかったかのように進む音楽。ハイドンのユーモアがここに来て開花した感じである。時折響くトランペットの音が耳に心地よい。
第4楽章のプレストは真剣に早いので威勢良く終わる。これで曲が終わったと誰もが思う。ところがしみじみと美しい響きが始まるのも、やはり後年によくあるユーモラスな仕掛けと同じだとも思ったが、少しうがちすぎだろうか。
参照が自由なWikipediaにこの曲の機知に富んだ仕掛けがうまく説明されているので、ここで抜粋しておこうと思う。
「抒情的で静かな音楽の途中で、ふざけた、茶化すような曲想が乱入してきたり(第2楽章および第5楽章)、和声法の反則が冒されたり(第4楽章)、バルカン半島やハンガリーの民俗音楽の粗野な一面が誇張されたり(第3楽章および第4楽章)と、堅苦しくない性格が何かと打ち出されている。これらは、原作となったドタバタ劇の主人公の、うっかりした性格に関連していることは言うまでもない。あまつさえ終楽章では、演奏中にヴァイオリン奏者の調弦が間違っていることに気付いて調弦をやり直すという場面も挿入されている。(G弦=ト音をヘ音にして開始、途中でト音に直して演奏を再開する。サイモン・ラトルがバーミンガム市交響楽団と共演したディスクでは、指揮者のラトルが口笛を吹いてヴァイオリンの調弦ミスを指摘し、やり直しを合図するという演出がなされている。)」
さてそのサイモン・ラトルによる演奏である。私はリリースされたときから持っているが、ラトルはこのCDを含めて2枚をリリースしただけでベルリンへ移り、そこで珍しいパリとロンドンの間の交響曲集2枚組をリリースしただけである。他の有名曲はもとより、若いころの作品を取り上げる気配もないので、気まぐれな指揮者である。
その第6楽章の冒頭のシーンだが、3つの和音が響いた後、音楽が始まってすぐに変な不協和音が出てしまう。何かおかしい、ということで弦楽器が調弦を始めるのだ。こういうことである。バイオリンの4本ある線のうち、最も高いのがE線で、その次がA線、順にD線、G線であることはバイオリンを習うと初日に教わる。調弦ではこの隣り合う2つ(EとA、AとD、DとG)を同時に鳴らす。するとそれぞれ5度の響きとなるが、この曲では最後のDとG(ト音)が何とDとF(ヘ音)になってしまう(6度)ということである。
調弦がおかしかったということでFをGに上げて調弦が終わり、何と音楽をやり直し。今度はちゃんと鳴って1分半足らずの音楽が無事終わる。上記の説明にあるように、ラトルが本当に口笛を吹くか、はじめてちゃんと聞いてみた。
だが普通に聞いてもわからなかったので今度はiPodで聞いてみたところ、ラトルは指揮棒で譜面台をたたき何やら口で合図しているように聞こえる。口笛ではないものと思われる。ライナー・ノートも読んでみたが、特にそういう記述は見当たらなかった。
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