歌劇「夢遊病の女」はスイスの村が舞台である。結婚式の前夜、夢遊病の新婦がふと滞在する伯爵の部屋で寝てしまったことから騒動が沸き起こるが、これは夢遊病のせいであることを皆が知って一件落着となる、といういつもながらの荒唐無稽なドラマ。だが、美しい歌が次から次へと歌われるベルカント・オペラの珠玉の名作として知られるだけに、見ごたえは十分である。
数年前のディスクで決定版と称されたナタリー・デセイがアミーナを歌い、指揮はその時と同じピドである。これに今は飛ぶ鳥を落とす勢いの最高テノールで、歌劇「連隊の娘」で一世を風靡したフアン・ディエゴ・フローレスが加わる。やはりメトならではの望みうる最高キャストである。
演出はジマーマンという人だが、ボイトの案内でも明らかなように、舞台は何とマンハッタン、ユニオンスクエアに近い劇の稽古場に変わっている。そこで練習中のストーリーがスイスの村、という劇中劇の形を取るのだ。
この作品は極めて有名である割には、ディスクが少ない。おそらく、マリア・カラスのモノラル録音を筆頭に、定番のジョーン・サザランド盤を除けば、後はこのデセイ盤くらいで、昨年リリースされたバルトリ盤が続く。よって、4種類を聞けばだいたいどういう作品かがわかるのである。
私はiPodに入れたデセイ盤とバルトリ盤を時々聞くが、やはりフィナーレのアリアは圧巻である。ところがそのシーンを初めて映像で見たのだが、やはりここで胸に迫るものがあった。オペラをこのような形で見ることのできる喜びが、夢遊病から覚めて意匠を着換え、村人に混じって踊るアミーナの表情に重なって、恍惚とするシーンだった。
夢遊病のシーンでは、第1幕で何と客席に登場したアミーナは、第2幕で舞台の一部がオーケストラの上部に突き出してきて、指揮者の前で歌うという立体的シーンも、よく調整されたカメラが効果的に映し出し、観客のブラボーも最高潮に達した。
カーテンコールは幕の内部を映し出し、出演者が抱き合うシーンも見せるが、余韻に浸ったまま終わるので、気分良く映画館を後にすることができた。2時間のオペラも休憩やプレビューを挟んで約3時間、猛暑の日中を涼しい館内でくつろぐことを考えれば、3000円でもまあいいか、という感じである。同じ映像はBSハイビジョンで放送されたのでブルーレイ・ディスクに録画してあるが、とうとうこちらの方は、見る機会を逸したままとなっている。
(2010/08 東劇)
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