カルロス・クライバーという指揮者の存在を知ったのは、そのときだったと思う。だが、この指揮者はわずかにこの2曲について断トツの1位で登場しておきながら、それ以外の曲には何位にも登場しない。何とも奇妙な指揮者がいるものだ、とその時は思ったが、どちらの演奏も天下のウィーン・フィルを指揮してドイツ・グラモフォンのジャッケットに収まっていたので、これはれっきとしたメジャーな演奏なのだと直感した。
だがその演奏を聞く機会がない。第5番の方は私が高校生になったのを記念して、叔母がプレゼントしてくれたが、第7番のほうは、毎週「FMファン」などを読んでは、エアチェックの目印をつけていて、学校帰りの時間帯にやっとのことでそれを発見し、高かったクロームのカセット・テープに収めたのである。それがこの演奏に接した初めての体験だった。
その頃の私のお気に入りは、少し前まではカール・ベーム指揮ウィーン・フィル、それから出たばかりのレナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルと、ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団によるものだった。だがクライバーの演奏はそのいずれもにはないリズム感と、熱狂的なまでの速さ(と感じた)があるのを発見した。私は何度そのテープを聞き返したかわからない。そのたびにウィーン・フィルが魔法にでもかかったように必死で演奏する姿に、ほとんど放心状態で聞き入った。このときの録音は、何かヴェールに包まれたような不透明感と、それがゆえの小規模感があった。私はこれがオリジナルの録音のせいだと思い、大いに失望していた。

1995年になって、2枚のLPが1枚のCDに組み合わされて登場した。しかもオリジナルのリマスター盤だった。第5番と第7番がカップリングされていたが、私はいずれも擦り切れるほど聞いていたので、そのCDを購入したのは2005年になってからだった。今あらためて聞き直すと、当時悪いと思っていた録音が実に生々しく、大変素晴らしい。
記録によれば第5番が1974年の録音、1975年の発売、第7番が1975年の録音、1976年の発売である。第7番はクライバーの写真だが、CDのジャケットは第5番の方が使われていて、指揮姿のアップを白黒のシルエットに加工したもの。この頃は定期的にウィーン・フィルにも登場していたのだろうか。その後第7番は実演でもしばしば取り上げ、私も大阪で1987年だったかに第4番とともに聞いた。この時はバイエルン国立管弦楽団だったが、東京公演はNHKで放映されたのでアーカイヴに残っているはずである。また、別の演奏会の第7番は、クライバーの死後になってOrfeoからライヴ盤のリリースがあり、やはり素晴らしい演奏である。映像でもコンセルトヘボウを指揮したものが出ているが、これはその華麗な指揮姿が楽しめるにも関わらず、録音がかなり貧弱である。第5番はこのウィーン・フィル盤くらいしか録音がない。
第1楽章で繰り返しが行なわれ、徐々に熱を帯びてくる。第2楽章の終わりで、かのクレンペラー盤がそうであったように、ピチカートで終わるのが特徴的である。第3楽章は少し冗長な音楽だが、それを嫌ったのか、実演で聞いた時にはもっとスピーディであった。第4楽章の熱狂は言うまでもない(ちなみにクレンペラー盤のLPを間違って45回転できいたことがあるが、その時の演奏がクライバーそっくりだった。このことからクレンペラーがリズム処理に長けていたことが逆にわかる)。
ウィーン・フィルが真剣に熱演している。実演収録ではないにもかかわらず、その様子は驚きである。このレコード以降、この演奏は第7番のひとつのモデルになったのではないかと思う。そして今ではこれだけの緊張感のある演奏は珍しくなくなったが、それを1975年に既に、しかもウィーンで行なわれていた、という記録は今想像しても新鮮である。クライバーのベートーヴェンは、結局、第4番、第5番、それに第7番だけである。後に「田園」も出たが、これは音質が劣悪で、しかも演奏はベストとは言いがたい。それでも、この第7番の演奏だけで彼の名は後世に残るだろうと言うと、言い過ぎだろうか。
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