ベートーヴェンの交響曲を録音するからには、それなりの覚悟があってのことだろうと思う。なんたってベートーヴェンの交響曲である。古今東西の残る録音と比較されることはわかった上でのことだろうし、リスナーとしてもすでに耳にタコができるくらい聞いているわけだから、ちょっとしたことでも指摘を受けかねない。それでもベートーヴェンの録音がこれほど多いのは、やはり何と言っても曲の魅力が尽きないからで、しばらくするとまた違った演奏で聞いてみたいと思うし、実際聞いてみたら新たな発見をすることも一度や二度ではないのだから。

かねてから2度ものベートーヴェン全集を録音したショルティは、手兵シカゴ交響楽団との演奏が多いが、たまにウィーンに赴くとそこでなかなかいい録音を残すことがあった。シューベルトの第8番「グレート」もそのひとつであるし、ウィーン・フィルとの歴史に残る金字塔であるワーグナーの「指環」は、このコンビが成し遂げた最高の遺産である。ショルティは、その鋭角的な指揮がぶっきらぼうで、何とも音楽的センスに欠ける時があるというのが率直な感想だが、ウィーン・フィルとの演奏となるとその傾向に一定の歯止めがかかる。ウィーン・フィルの職人的な保守性が、このハンガリー生まれのピアニスト!を手玉に取っている、と言うと言い過ぎかも知れないが、とにかくそのような「歩み寄り(妥協)」が見られるのが好ましい。
というわけでこの第5番もショルティの特徴とウィーンの伝統が面白く融合して、なかなかの名演奏となっている。私は第4番や第6番などと違って、この曲の重々しい演奏は苦手だ。颯爽としたスマートな演奏なら、そこそこの演奏でも私には好ましい。ショルティ以外の演奏では、上記やこれまでにで触れたもの(ケント・ナガノ指揮モントリオール交響楽団)以外では、例えば以下のものが私の印象に残る(思いつき順)。
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団
フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団
シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
小澤征爾指揮ボストン交響楽団
レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
金聖響指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団
リッカルド・ムーティ指揮フィラデルフィア管弦楽団
クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
第3楽章の静かなピチカートに入る前のフーガで、低弦の響きがこの演奏の注目点である。他には第1楽章のオーボエのソロ、それから終楽章での健康的な演奏もいい。曲がいいのだからあまり難しいことを言わずに、音楽に身を任せて聞くことが好きだ。いい演奏が目白押しなので、毎日違う演奏で聞いても飽きることはない。こんなに何度も演奏されるのだから、ベートーヴェンはお墓の中でさぞ驚いているのではないか、と思う。
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