
ここでどうしても話は、エーリヒの息子であるカルロスとの比較となってしまう。それはこの2つの演奏が、やはりどう考えてもよく似ているからだ。例えば第2楽章。旋律を浮き上がらせていくところや、第4楽章で少しテンポを落として、フレーズの隅々までをきっちりと明確に演奏するあたりである。カルロスの演奏は1975年の録音で、私はそのLPレコードを中学3年生のときに聞いた。確か2400円だったレコードには、この曲が1曲しか入っていなかった。
それから翻ること約20年の1952年の録音で、オーケストラはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団である。デッカによる録音なので細部まで明確だが、アムステルダムの比較的明るい音色が合っている。なお第4楽章の繰り返しは、当時の慣習で省略されている。
カップリングの「田園」についても一言。この演奏は特に第2楽章が名演だと思う。初めて効いた時には、その味わい深い雰囲気に酔ったものだ。これにくらべて第1楽章などは比較的快速である。そしてこの「田園」は、息子の演奏(オルフェオから発売された唯一のライヴ録音)などよりもはるかにいい。「田園」には素晴らしい演奏が多いが、これもその一つである。
エーリヒ・クライバーは結局ベートーヴェン全集を残していない。カルロスもまたいくつかの曲を演奏しただけである。私は長い間、カルロスが第9や「フィデリオ」を演奏する日を心待ちにしていたが、これも結局、かなわぬ夢となってしまった。モノラルで聞くエーリヒの演奏に、職人として時代を駆け抜けた淋しげな親子の姿を、どうしても見てしまう。演奏が素晴らしいだけに、それが初春の一夜の宴のように、はかないのである。そう言えば満開だった桜も、今日の小雨で随分と散ってしまった。
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