2012年4月23日月曜日

NHK交響楽団第1724回定期演奏会(2012年4月15日 NHKホール)

最上段にずらりと並んだコントラバスの後に、反響板と思われる白い板が並んでいて、いつものコンサートとは雰囲気が少し違う。日曜日の昼下がりとはいえ、まだまだ肌寒い。お尻が見えそうな若者に混じって、老人たちの群れが公園通りを登っていく光景は、いつも微笑ましい違和感がつきまとう。定期演奏会でNHKホールが満員になることは滅多にないが、年に数回はあるようだ。この日はそういう日だった。

NHKホールの開館は開演1時間前で、いつものように自由席を確保するためかなり前に到着し、3階席に陣取る。注意喚起のアナウンスは、携帯電話やアラーム付き腕時計のことを話すのが通常だが、ここNHKホールでは補聴器のノイズについても行なわれる。老人また老人の中に、少しは若者もいるのだが、今日の指揮者も78歳のロジャー・ノリントンである。オール・ベートーヴェン・プログラムということで、この指揮者とは3年越しの交響曲全曲演奏会の最中である。もらったプログラムには、A/B/Cの全プログラムが掲載されているが、今日はその初回である。

ビブラートを極力排したピュア・トーンで知られるノリントンとは、NHK交響楽団とも相性がいいようだ。数年前から招聘し、N響の音が一気に蘇った。それまでくすんだような音色だったのが、何とも素敵な色に変身したのはテレビでもおなじみである。私はシュトゥットガルト放送交響楽団とのコンサートで「田園」を聴いているが、N響との演奏会は初めてである。今日のプログラムが大変魅力的に思えたので、半ば衝動的に足を運んだ。丁度家族はでかけて家にいないという好都合も手伝った。

そもそもN響の音色が何とも貧相な感じなのは、楽器が悪いからだとか、ホールが良くないからだとか、あるいはそもそもテクニックの問題だ、などとささやかれていた。しかし私がノリントンとの演奏で思ったのは、それまでの指揮者がそういう音色を出すテクニックを持ちあわせていなかったのではないか、ということだ。あるいは無頓着だったのだろう。オーケストラがそのような音を求めなかったかも知れない。だがノリントンの手にかかると、耳が洗われるように心地よい響きである。最初の曲「フィデリオ」序曲で、その素晴らしさは確認できた。ティンパニの強烈にして鋭角的な響きは、この演奏の集中力を一気に高めた。木管楽器もすこぶる上手いと思ったし、弦楽器のバランスも絶妙だと感じた。

三重協奏曲が今回の見物であった。三人ものソリストが必要なこの曲は、滅多にプログラムに登ることはない。私も初めてである。だがベートーヴェンの中でも目立たないこの曲は、室内楽と管弦楽曲が同時に楽しめるなかなか楽しい曲で、私も何枚ものCDを所有している。今回のソリストはすべて若手のドイツ人で、ピアノがマルティン・ヘルムヒェン、ヴァイオリンがヴェロニカ・エーベルレ、チェロが石坂団十郎である。

三人の若々しい音が、ノリントンのピュア・トーンに融け合ってなかなかの名演だったと思う。三人ものソリストがオーケストラの前に並ぶのも見ものだったが、ノリントンはやや斜めに向いて、指揮台にも立たずに埋もれた感じで指揮をしていたのが印象的だった。

さて、最後は「エロイカ」である。この「エロイカ」は私が聞いたすべてのベートーヴェンの実演の中でも最高のものだったことを最初に書いておきたい。ベーレンライター版を使用した演奏は、スピードがあってすべての繰り返しを行い、鋭いティンパニが特徴であった。第1楽章の出だしから私は興奮し、オーケストラも乗っているように感じた。長い第1楽章が終わるまでの時間だけで、その日のチケット代の元を取ったように感じた。おそらくそうだろうというような演奏を、見事に再現したN響との演奏は、そのままDVDで発売してもいいようにさえ感じたが、5月の「ららら・クラシック」という「N響アワー」の後続番組で放送されるようで、今から楽しみである。

第2楽章のメロディーもメリハリが効いて、メランコリックな木管も印象的だが、ここをあくまでリズカルに演奏することに、私はとても好感を持つ。その結果、この長い曲も終盤に向けて盛り上がっていく様子がよくわかるのである。第3楽章の難しいホルンのトリオを乗り切ると、第4楽章の興に乗った演奏が生きてくる。日経新聞夕刊にこの日の演奏の評論が掲載されているが、確かにここをもう少し喜びに溢れた愉悦感で走れば、申し分はなかったかも知れないし、私もそのように感じた。だが、それは高望みしすぎかも知れない。

とにかくコーダまでの45分間は、思わず身体を揺すってしまいたい時間の連続で、私はパーヴォ・ヤルヴィの演奏をCDで聴いた時と同じような素晴らしい時間を楽しんだ。久しぶりのN響の定期だったが、こういう名演なら何回でも通いたいと久しぶりに思った。丁度ベートーヴェンの演奏を立て続けに聞いていたので、その意味でも大いに共感することのできた演奏会であった。

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