2012年3月3日土曜日

ベートーヴェン:交響曲第2番ニ長調作品36

音楽鑑賞の軌跡において、ベートーヴェンの交響曲が常にそばにあったというのは、多くの音楽愛好家の共通した体験のようだが、私にとっても例外ではない。だが第2番の交響曲は、私がもっとも最後に触れた交響曲であるにもかかわらず、今最も好きな交響曲である。取り出して聞くベートーヴェンの交響曲は、最近ほとんどが第2番で、それ以外はあまりない。この曲は、すべてが完成度の非常に高いベートーヴェンの交響曲の中でも、とりわけ完成度が高いのではないか、とさえ思っている。今もこの曲をアーノンクールの演奏で聞きながら書いているが、音楽が興に乗ってくると、文章など書いていられないくらいに浮き立つようになってしまう。

かつて私の家にはベートーヴェンのLPが沢山あったが、そのほとんどが第3番「英雄」以降で、第2番だけが欠番だった。正確に言えば全集がひとつだけあった(コンヴィチュニー盤)ので、聞こうと思えば聞けたのだが、そういう気はおこらず、ひたすら「田園」だの第7番だのと毎日にように聞いていたのである。ある日私は音楽の先生に第2番とはどのような曲かと聞いてみた。その先生は「モーツァルトとハイドンを足して2で割ったような感じよ」と答え、ベートーヴェンの初期の作品はかれらの影響を受けて、まだ独自性を発揮するには至っていない、というようなことを言ったかと思う。

私はそのようなものだと思っていたが、その概念を覆す出来事が起こったのは、バーンスタインのベートーヴェン全集が発売になり、その第2番(ウィーン・フィル)を聞いた時だった。何とも嬉しくなるような作品なのである。激しく魂を揺さぶる第5番のベートーヴェンと、優しく美しい「皇帝」の第2楽章や「悲愴」ソナタのようなベートーヴェンの間にある「通常の」ベートーヴェンの姿は、私の虜である。歌劇「フィデリオ」や「エグモント」の音楽を何度聞きても楽しめる。ハイドンでもモーツァルトでもないベートーヴェンの陽気で愉快な姿こそ私の発見した新しいベートーヴェン像であり、これが今もっともいいと感じているのである。

第1番よりも確信に満ちた序奏に続いて、躍動感に満ちた第1楽章が始まる。序奏が少し鬱陶しくなってきたところで、一気に主題へ雪崩こむあたりは、実に素晴らしい。主題以降は実演で聞くと、弦楽器のアクセントに乗って全体が一気に快走するので、オーケストラが奮い立つように演奏する姿に出くわすことになる。何度かそのような経験をしたが、それは第7番の終楽章と同じくらいに素晴らしい。

続く第2楽章こそは、この第2番の中でもとりわけ美しい曲で、ここを聞くたびに私はうっとりとする。今最も大好きなベートーヴェンの曲である。ラルゲットというのは「ラルゴよりは速く」の意で、ではどのくらいの速さか、と聞かれたらここは主観的なものになってしまう(ベートーヴェンはメトロノームの記号を入れているが)のだが、私はそこが遅くて思い入れたっぷりの演奏こそいい演奏だと思っていた。しかし演奏スタイルが変わるに連れて、そっけないほどに快速で演奏される淡白なスタイルも、それを感じる心が広がれば、それはそれで大変素晴らしい演奏になることがわかった。第7番の第2楽章もそうである。

第3楽章のスケルツォは、第1番と違って名実ともにスケルツォとなった最初の作品で、ベートーヴェンの自信がうかがわれる。続く第4楽章は、ふたたびアレグロの快速急行だが、これがまた大いに興に乗って素晴らしい音楽になることはまず間違いない。ベートーヴェンの音楽が私達を感動に導くスタイルは、とりわけ奇数の交響曲において強調されているが、このような室内楽的なまとまりの曲であっても、いやむしろそのほうが自然に、私達をうきうきさせてくれるのである。ベートーヴェンの若さがあふれる健康そのもののこの曲が完成されたのは、驚くべきことに耳の病気が進行し、あの「ハイリゲンシュタットの遺書」を残した直後だった。

お気に入りの演奏は沢山あるし、素晴らしい曲の前では演奏による違いなどはどうでもいいとさえ思えてくるのだが、目下のところはアーノンクール指揮ヨーロッパ室内管弦楽団の全集からの一枚を挙げておきたい。いわゆるピリオド奏法による演奏の中では古い部類に入り、20年もたった今ではより刺激的な演奏に隠れてしまった。音色が明るいのがアーノンクールの特徴である。ピリオド奏法の標準的な位置にあるこの演奏の素晴らしさの半分は、ヨーロッパ室内管弦楽団の技術的な充実度で、指揮と完全な信頼関係の上に融け合った十全な演奏は、今でも古さを全く感じさせない。

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